十一月二十一日 緋山

冨湯へ向かうか、緋山に向かうかの二択で緋山を選んだが、失敗だった。


直通の高速バスがなく、一日二本程度の中距離バスしかない。乗り継ぎも一時間以上の待ちが発生し、時間を浪費している。


待合室で土産物をのぞいてみるが、美術品などあるわけがなかった。


ここの風物詩である紅葉した楓の葉の色に染めた襟巻は色鮮やかではあったが、染料に「紅花」とあり、興が覚めた。


この地域の住人と思われる人々が話している。緋山の紅葉はまだ二割程度だそうだ。せめて緋色に染まった楓が風に揺れるところを見られればこちらの道を選んだことにもいくらかの意味を感じられたのに。


この後に乗るバスは、ずっと山道を右へ左へうねりながら登っていくのだろう。同じ景色を繰り返しながら。そうやってようやく着いた場所から私が見たかった景色は見えるのだろうか? 私を飽きさせないでいてくれる景色は? 美術品は?


不安ばかりが募る。早く買い付けを進めなければ、また百容堂の主人から小言を言われるだろう。


やめよう。こんなことで悩むために私は旅を始めたのではないはずだ。


今の悩みは、自由からみずから遠ざかっているように感じる。

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