十月十八日 藻美
糸猫便の集荷所には、タケルおじさんが言ったとおりの「大作」が届いていた。私の身長の二倍ぐらいはあったと思う。すでに梱包されていてよくわからなかったが、空へ向かって飛び立とうとする鳥を彫ったもののように見えた。糸猫便の社員がタケルおじさんから預かっていた作品の請求書を見たが、破格だった。これでは原価を超えているかも怪しい。旅立ちのお祝い、ということなのだろうか。感謝しかない。
糸猫便の作業員がせっかくの梱包を解いているので、何をやっているのか聞くと、タケルおじさんがここで私に作品を一度見せてほしい、と言ったのだそうだ。 でも、どんな価格で売ることになっても、莫大な利益が出ることは間違いなかったし、包み直しの作業で作品に傷がつくことのほうが怖かった。梱包を解く作業は中止してもらった。すると、何人かの糸猫便の社員が見るからにしょんぼりして業務リフトで地下に降りていった。間近でタケルおじさんの作品を見ようと集まっていたのだろうか。悪いことをしてしまった。
作品は直接、百容堂に送ることはせずに、山奥地方から天宿の支社に送り、そこでしばらく預かってもらうことにした。
請求書の裏にタケルおじさんからの小さな手紙が付いていた。
『芒台の夢の山はもう見た?』
これは見ておけということに違いない。すぐに行ってみることにした。
しかし、地図をいくら探してもない。「芒台」という地名はあっても「夢の山」はないのだ。
仕方なく、芒台まで行って道行く人に聞いてみた。すると「夢の山」というのはゴミが集まってできた山の通称なのだそうだ。答える間にその人は手に持っていたラムネを一本空けてしまった。
ゴミの山なんて見る価値があるのかな。そう思いながら「夢の山」に辿り着くと、思わぬ光景が待っていた。「ゴミ」として捨てられていたのはさっきの人が飲んでいたのと同じラムネの瓶だった。それが山となり、虹色の光を放つ透明な山になっている。
やがて、雨が降ってきた。すると、瓶を伝って不思議な音色が聞こえてきた。スィー、チョン。スィー、チョン。笛の音のような、雨垂れのような、忘れられないぐらいきれいな音だった。
タケルおじさんが私にこれを見せた理由。私の推測では、たぶんこうだ。
見るものを増やすことが重要なんじゃない、たった一つでもいい、自分が本当に好きなことを見つけろ。それが見たこともない、新しい景色を作るんだ。
それなら、私は、タケルおじさんのところの木屑を山のように持って帰りたかった。
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