十月六日 蛇ヶ峰

気をつけていたつもりだったのに、とうとうやってしまった。あらぬところから噴き出した間欠泉を浴びて、左腕に大火傷を負ってしまったのだ。しかし、ここの人たちは慣れたもので「ここでは当たり前のことだよ」と笑うだけだった。「俺なんかそれで左足だめになったからな」と笑う老人さえいた。正直、笑い事じゃない。




そもそも、ここの人たちはいったいどういうつもりでこんな危険な場所に住んでいるのだろう? 聞けばあの間欠泉のせいで、今でも年に数人は死んでいるらしい。他に住むところなんていくらもあるだろうに、なぜこんな危険なところにわざわざ住んでいるのか、私には理解できない。




午後はずっと宿で過ごした。


昼食を運んで来てくれたときに、女将さんが婚姻の耳飾りをしていることに気がついた。石はおそらくソーカライトだろう。そして、右耳にももう一つ、黒い耳飾りをしているのが見えた。離婚経験があるのだろうか。




夕方に布団を敷きに来た若大将の耳に、女将さんと同じソーカライトが光っていた。ずいぶん歳の差のある夫婦だ。親子だっておかしくないくらいだ。余計なお世話だけれど。

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