十月一日 満月野
(このページは広告の裏に書かれ、後から貼られている)
困ったことになった。日記が盗まれてしまった。母親にもみつかった。
母親は大通りにいた。周りに人は山ほどいて、みんな一度はあの電磁放送の会見を見たであろうに、母親にも私にも気づいていなかった。それなのに、私も、母親も、一目ですぐにお互いに気がついた。
髪を切ったことだとか、一人で危ないことだとか、またいつもの小言を言い募るのだろうと思っていたのに母親は「どうして逃げるんだい?」と一言きいただけだった。
逃げる? 胃の中身がこみあげてくるほどの怒りが沸いた。でも「違う」と言った後、じゃあ、私は何をしているのか、うまく言葉が続かなかった。
私は何をしているのか。旅をして、自分の知らない世界を見たい。でも、なぜそれをする必要があるのかと聞かれたら、あの狭い家に閉じ込められたくない、あの家から逃げたい、という結論に辿り着いてしまう。
ちがう、そうじゃない、と思いを巡らせた。そして世界中の未知を求めて飛び回る功望の姿が脳裏に浮かんだ。そうだ、私はああいう人になりたいんだ。
「逃げてるんじゃなくて、追いかけてるんだ」
母親にそう答えた。
日記を盗んだのは母親かその取り巻きの仕業だろう。
私が「返して」と言うと、母親はなんのことだかわからない、と首を振る。しかし、母親は平然と嘘を吐く人だ。「あなたのことを本当に大切に思ってるのは私だけよ」という言葉が嘘だったように。
母親は私に家の鍵を渡そうした。
「帰りたくなったら、いつでも戻ってきて」
私は鍵を受け取らなかった。
その場を急いで立ち去ったけれど、母親は追いかけては来なかった。
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