九月三十一日 満月野

今日は昨日の酒がまだ残っている。人と共に過ごす時が楽しかったのは久しぶりだった。功望と話して、女性が一人で旅するときの注意やコツもたくさん聞けた。




功望は私に何度も言った。


「もっと自由になるべきだ」と。


功望の生き方はたしかに自由だ。絵本のなかじゃあるまいし「冒険者」なんて職業が本当にあるのかと疑っていたけれど、功望の話を聞く限り成立しているようだった。


世界最長洞穴の踏破やガス火山地帯横断……想像するだけでも苦しくなる冒険には金満や研究者による成功報酬がつくものらしい。しかも、十年は生活ができるくらいの額だ。


「それだけの額が出るのなら、やっぱり命懸けになるのでしょう?」


と聞くと


「命なんて、あたしは懸けないよ」


と功望はけろりと答える。だめだと思ったら、とっとと帰るそうだ。冒険の成功率は「運」に左右されることも多いからだ。天候はそのいい例。冒険を成功させたいからといって、吹雪のなかテントを飛び出して死んでしまったら二度と挑戦できない。


だから、冒険家に必要なのは、一回の挑戦で成功することより、一度掲げた目標は何度目の挑戦になろうと必ずやり遂げる、という意思を持つことなのだそうだ。そして、この意識がないと、今度は挑戦そのものが億劫になり、食いっぱぐれる、と。おもしろい話だと思った。




……やはり、酒がまだ残っているみたいだ。身体がだるくてしょうがない。少し寝よう。


ああ、今日のことをまだ一言も書いていない。もしかしたら、次に起きるときにはもう今日じゃないかもしれないというのに。




でも、こういう日もあっていいだろう。


自由に、自由に。




………………………………………


無事に今日中に起きれた。


これで今日のできごとも書けそうだ。……と言っても、夜に功望と飲みに出かけたぐらいしかないのだが。




「昨日はあたしの話ばっかりだったから」と、今日は私の話ばかり聞かれた。


どうして蚤の市にいたのか、なにかいいものがみつかったか功望は気になっていたようだ。話しても話しても「他には? 他には?」と聞いてくる。そういうときの功望はちょっと利かん気な子供みたいで可愛らしかった。




今朝、功望とのお近づきのしるしに、と市場で買っておいた輪子名産の黒小箱は、いつのまにか封が開いてしまっていたので、明日また渡すことにした。せっかく蚤の市じゃない店を探して新品を買ったのに、おふると思われるのはおもしろくない。


酔っぱらっていると扱いが雑になっていけない。



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