九月三十日 満月野

駅前の回覧廊の情報で、今日、運送業者のみが出展できる蚤の市が赤銅光通りであると知り、行ってみることにした。




百容堂の主人からは「旅を始めてそろそろ三カ月経つんだから、自分がいいと思ったものを仕入れてこい」と言われたものの、なんの縛りもないとなるとかえってなにを仕入れたらいいかわからなかった。


運送業者限定の蚤の市なら、複雑な配管模型や山境にとらわれない新しい作品に出会えるのではないか、と思ったのだ。




赤銅光通りに近づくと、強烈な化学薬品や黄土の臭いが漂ってきた。赤銅光通りには獣や髑髏を型どった派手な配管装飾を凝らしたトラックが何十台も並び、普段は人のための荷物を積むその場所に、運転手がこれまで費やしてきた時間の姿が思い思いのかたちで晒されていた。地方の土産品、実家で買う犬を配管で再現したもの、今まで運転席を飾り立てていたと思われる過剰で夥しい量の車内備品……。


どれも初めて見るものばかりで新鮮だった。しかし、自分が今まであまりに触れてこなかった世界だったために、人だかりができるほど人気のものでもなにがいいのかさっぱりわからない。




蚤の市で女性の「冒険者(そんな職業が成り立つのかわからないけれど、本人がそう言った)」に会った。長い髪を色とりどりに染めて三つ編みにしていて、嗄れた声できびきび話す。名前は功望という。


根なし草という意味では似ているところがあるからか、意気投合した。滞在中にどんな話ができるか楽しみでしょうがない。

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