八月二十五日 旗崖

そもそも、私がこの日記を書いているのは、本当に八月二十五日なのだろうか。ずいぶん長い間、眠っていたような気がする。ここには外部の情報がなにも入ってこない。……本当のところがよくわからない。




外部の情報を断つのは人を洗脳するときの典型的な手段だと本で読んだことがある。あの人たちは私をここに閉じ込めて洗脳する気なのではないか? まだそれらしき行動はないと思うのだが……私が気がついていないだけで、もう始まっているのかもしれない。




旗崖を訪れた旅人はみなここに連れてこられてしまうのだろう。


だからあんなに人がいなかったのだ。だから宿泊施設なんてなかったのだ。


夜を過ごす手段がなければ、みな術師についていくしかないじゃないか。


こんなことになると知っていれば、来なかったのに。


百容堂の主人は、本当にこのことを知らなかったのだろうか。


今となっては、なにもかもが疑わしい。




今日は食事のとき以外、ずっとこの部屋だ。


同じ場所に長くいると、家にいたときを思い出す。


あのときと一緒だ、と思えば、少しは気が紛れる。


思いを吐きだせる場所さえあれば、私は狂ったりしない。


今までだってそうだったから。

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