八月二十二日 枡磐
枡磐といえばつるし飴だ、と思い、店に入ると、ちょうど電磁放送で母の記者会見の様子が放送されていた。故・美馬野漆の最高傑作『家族の肖像』とその娘が同時に姿を消した、と、母は大げさに泣き、訴えていた。しかし、店にいる客は誰も目に止めない。きっと母は、もう一生分、人に泣きついたのだ。泣きつける最後の一人が私だったのだ。
つるし飴は天井から落ちる水飴を棒で巻き取って食べる、枡磐でしか食べられない名物だ。
みんな会見なんてそっちのけで天井から落ちる自分の水飴に集中していた。
小さな女の子が「これは神様の涙なのです」と言いながら水飴を巻き取っていた。涙が甘い飴になるならどんなにいいだろう。
会見で映し出される私の写真は、今の私とは似つかないもので安心した。「切るな」と母から言われていた長い髪を切った私に、店内の客は誰も気づかなかった。
今日も最後は野宿だ。この辺りまで来ると夏場でも夜は冷え込む。いつになったら気兼ねなく宿泊施設に泊まれるようになるだろう。冬までにはなにか方法を考えなければ。
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