八月二十一日 安在

糸猫便の配達員に、経砂島で私の半生を言い当てた老婆の話をしたところ「同じような話を聞いたことがある」というので、その地へ行ってみることにした。




人は同じ経験をしても、それぞれ印象や感じ方が異なるものだ。しかし、経砂島で会った老婆が話した私の半生は、私が思っていた私の半生と同じものだった。「自分以上の自分の理解者などいない」と固く信じていたのは誤りなのかもしれない。あの老婆と同じ系譜を持つ者がもしあるのなら、深く知ってみたい。




糸猫便の配達員の話によると、そこに住む者は「御言葉」を降ろすことができるらしく、他人の心を読んだり、進んだ技術で人を驚かせたりしていたのだそうだ。そして、人々を驚かせた技術のなかには鋳物の人形もあったらしい。たしかに、経砂島の老婆を想起させる。




今日はいったん、安在で野宿する。

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