八月二十日 経砂島
今日は村を照らす光を辿るところから始まった。村を取り囲む岩壁に白い半球が取り付けられているところがいくつもあり、光はそこから村中に拡散されているようだった。波が砕ける音に呼応するように、光は強くなったり弱くなったりした。
岩壁の奥から光が漏れるというのも奇妙な話だと思い、その周囲をくまなく歩いていると、岩壁の下から光が溢れているところをみつけた。なかに入れそうだったので入ってみたが、眩しくて眼も開けていられない。サングラスをかけて再度突入した。
島全体が魔法瓶のような構造になっていた、とでも言えばいいだろうか。岩壁だと思っていたところは実は二重の岩壁になっていて、その岩壁の隙間がこの光で満ちた空間のようだ。岩壁はつるつるに磨きあげられ、なにか塗料のようなものが塗られている。このおかげで光はここに溜まっているようだ。
さらに進むと、人がいた。学生ぐらいの、繊細そうな女の子だ。蜘蛛の糸のようなものを層状に積み上げて魚の像を作っていた。不思議なのは、糸であったときは透明だったはずなのに、像の一部として着地すると虹色に輝きを放つことだ。しかも、なにもしていなくてもゆらゆらと青から紫、赤と次々に色が変わっていく。
「見つかっちゃいましたか」と声をかけられ振り返ると、一昨日会った島民がいた。
すごく綺麗でしょ、という口ぶりから察するに、この女の子に恋をしているようだった。
素晴らしい作品なのになぜ隠そうとしたのか問い質すと、この光の回廊を出ると、像の虹色の輝きはなくなってしまうのだそうだ。
ようやく手を止めた女の子も話に加わる。買付には好意的だった。
必ず、この島で見た光景を再現する、という条件で商談はまとまった。再現過程で、経砂島の島民にとっては日常的なこの灯り取りの方法にも注目が集まればもっといい。
とても繊細な作品だったので、糸猫便に搬送を頼んだ。重厚感のある船ですぐに来てくれた。こんな辺境の島にも来てくれるとは、本当に頼れる助っ人だ。
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