八月十九日 経砂島
経砂島名物の美術品といえば、島で採れる苔色の石を使い、魚のような形に彫り上げるシラナウオ彫刻だ。これは少し美術を噛ったことのある人なら誰でも知っている。島民は、この美術品を隠そうとしたのだろうか? それとも、ほかに秘蔵の美術品があるのだろうか? 今日はそこをはっきりさせるところから始めた。
昨日の島民に「この島で一番うまくシラナウオを彫れる人に会わせて」と聞いてみると、あっさり案内してくれた。他の業者と既に取り引きがあるようで、百容堂の主人の「業務形態」とは合わないので商談は進めなかったが、岩とは思えない透明感のある作品は百容堂の主人との「買付の縛り」さえなければ必ず入手していた。
……ともかく、これで島民が隠しているのはシラナウオ彫刻のことではない、ということがはっきりした。なぜ嘘をついてまで隠す必要があるのだろうか。
それと、もうひとつ気になっていることがある。教科書を見ていただけでは到底知り得なかったこと。
この島の光源だ。
煙突の底にあるようなこの村で、光はゆらゆら水のように「溜まって」いる。こんな現象を、私は今まで見たことがない。これは島民が隠そうとした美術品と関係あるのだろうか?
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