八月十七日 経砂島

奇妙な島民に捕まり、朝まで付き合ってしまった。昨日のことになるが、書き残しておこうと思う。




旅館を出てすぐの道で「手伝ってほしい」と老婆に声をかけられ、厨房のような場所に連れていかれた。鍋のなかには炎にしか見えない物質がまるで赤茄子のスープのようにぐつぐつと煮えていた。




「人形を作るんだよ」


とその老婆は金属の型に鍋の赤いスープ状のものを入れた。そして、老婆が型を合わせると、中身がガタガタと震え出した。そこで老婆が型を私によこすので、私は型についたベルトを締めた。かなり暴れるので、骨が折れる作業だった。




やがて型の動きが収まると老婆はベルトを外し『人形』を取り出した。型に入れる前は赤一色だったのに、取り出されるときにはもう採色が施されている。いったいどうなっているのか、何度見てもよくわからなかった。取り出された人形が老婆の手の上にぐったりもたれかかるとき、一瞬、生きているように見えてとても気持ち悪かった。




「あんたは何番だったっけね」


老婆は何度も私にそう聞いた。


もしや、昨日の島民が話していた「島民は罪人が残ったもの」という話が本当で、番号というのは罪人につけられた番号のことなのではないかかと思い、一度、調子を合わせて「○番です」と答えてみた。すると、老婆は「○番は優しい性格だが嫉妬深くて海苔の漬物が好きだ」みたいな脈絡のない話を散々した後に「だからお前は○番ではない」と言った。




人形作りも一段落したし、あまりによくわからない状況だったので私が帰ろうとすると「思い出した、おまえは△番だ」


と老婆は言い、再び話始めた。それは、紛れもなく私の半生の話だった。




そして、気づいたら夜が明けていたというこの有り様。




老婆が居眠りしている間に家を抜け出した。裏庭には人間と同じくらいに大きくなったあの人形たちが並んでいて、それぞれ「□番」と番号をつけられていた。

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