八月十六日 経砂島
空から見た経砂島の異様さを忘れることはないだろう。巨大な積み木を海にぽつんと置いたような島の中央部はナイフでほじくり返したみたいに削られ、その穴の中で人々が暮らしているのが見える。煙突の穴にある村といってもいいかもしれない。当然、煙突の底にある村に光は届かず暗くなるはずなのだが、不思議なことに水槽に水でもためているかのように底の部分に光が溜まり、ゆらゆら動いていた。
断崖絶壁に見えた島の周りには放射状に人工の波止場がいくつも設けられていて、飛行機をつなぎとめるのに困らなかった。ただ、波止場から村に行くために崖越えから始まるのは堪えた。崖を越えなければ水を飲んで一休憩というわけにもいかない。天気が悪い日や風が強い日には島を出ることは不可能と思っておいたほうがよさそうだ。
経砂島はかつて天然の牢獄として使われていたこともあったらしい。百二十八年前に牢獄としての役割は終わったが、囚人たちはそのまま島に捨て置かれ、今の島民になったという。
……そうここの島民が話してくれたのだが、本当なのだろうか?
職人の住む島で、一筋縄ではいかない人が多い、と私は聞いていた。あの島民が言っていたのは侵入者を追い払うための嘘かもしれない。早く仲良くなれそうな島民をみつけなければ厄介そうだ。
島には通信にかかわるものが一切通っていないようだ。ここなら、あの騒動を知る者も、私の顔を知る者もいないだろう。今日は島にあった唯一の民宿に泊まった。
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