八月十五日 水香
海からの風が陸からの風に変わってから出航する、と言われ、夜まで待った。鋳錫の様子は昨日となにも変わらなかった。昼に赤茄子のスープ、夜に鶏の香味焼き。私が「おいしい」と言った双葉カズラの実以外は、献立も同じだ。
沈黙に耐えられなくなって、
「私が誰か聞かないの?」
と聞くと、
「嘘を吐くのは苦手だから、聞かないでおく」
と言った。
明月に宵月が追いついて、二つの月の光で海が銀一色に輝いた頃、出航となった。海岸には海に向かってまっすぐレールが伸び、周りになにもなくなった場所でふいに途切れていた。レールの始まりのところには、鴎のような形をした飛行機が二台連なっている。鋳錫は私を後ろの飛行機に乗せると、前の飛行機に乗り込んだ。
「そっちの機体に動力はない。飛行が安定したら切り離すから、島に近づいたら傘を開いて着陸してくれ」
と、言った。そんなのやったことない、と訴えると、
「今日の天気で島まで着けないなら、いつ飛んだって着けやしない。ボタンひとつ押すだけだぞ」
と鼻で笑われた。
「あんた、これから一人で旅するんだろう? 一人を望む割に、あんたは人に頼りすぎだ」
そして、この機体が切り離されてからずいぶんと経つが、まだ鋳錫の機体の音がすぐそばで聞こえる。これだけ面倒見がよければ、町の人ともうまくやれるはずだと思うのだけど。
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