桔梗色(ききょういろ)

第7話

 叔父の話しをちょっとしよう。

 叔父とは、母の年の離れた弟で、それも母とは腹の違う俗に云う外腹の子だ。だから母とは、かなり大きくなってから顔を合わせたという、意味ありな叔父だ。

 その叔父が事もあろうか、本家の家督を継いで当主となって、母は初めてその叔父の顔を知ったという。


 本家とは……かなりの昔には帝にもかしずいた事のあるという、それは由緒正しい家柄で、それを代々誇りとして生きている様なそんな旧家で、母は其処の長女として何不自由無く生まれ育った。そして女学校を卒業と共に、その頃には分家の方が勢いづいていて、その中でもダントツに羽振りの良い分家に嫁に出されたのだ。その母が、仕事一途で融通の利かぬ父との間に誕生させたのが、何を隠そうこの私だが、その事はこの話しとは全く関係の無い事柄なので、頭の隅にでも留めておいて貰えれば済む事だ。


 さてそんな意味ありな叔父がなぜ妾腹でありながら、かも由緒正しく尚且つ其のいにしえの由緒に縋る様な本家の跡を継げたのか……。

 我が一族は大概の旧家の其れに倣い、嫡男が跡を継ぐしきたりがある。

 当然の事であるが、当初母の弟の嫡男が家督を継ぐ事となっていた。

 だが其の嫡男が、成人を迎える事無く他界した。

 本家の当主よりも、 その正妻……つまり母の生母が動転したのは当然の事だった。当主には正妻が嫁ぐ迄に関係を持っていた妾が在ったが、次男の妾の子は夭折していて、女は正妻によって他家に縁を結ばされていた。

 必然的に正妻が産んだ三男が跡取りと目されていたが、その三男も流行り病で亡くなり、正妻が産んだ末っ子というべき四男は、生まれながらに大病を患っていた。それでも正妻は、その末っ子に家督を継がせるつもりであったが、その四男も成人する事なく他界した。

 二女三男を産んだ正妻だったが、長女の母と次女はそれなりに家に役立つ処に嫁がせていたから、正妻の子に跡を継がせる事は無くなってしまった。其処で白羽の矢が立ったのが、当主が花街で贔屓にしていて産ませた叔父であった。叔父は父の事も知らされずに、花街の母の元で育った様な人だったので、旧家の跡取りの話しなど寝耳に水であっただろう。

 特殊な世界の花街で、父の名も公然と知らされずに育った叔父は、少し歪な愛情を持ったのか、其れが生来の彼の持って生まれたものであったのか……。

 叔父は本家の当主が亡くなり、その今際の際に当主が言い遺した言葉により、家督を継ぐ事となり、その一切の援助と後見を長女の夫に託されたが為に、分家で娘婿である父が其れを告げに訪れた時には、それは美しい男と共に愛の巣を構えていたという。


 元来我が一族は嫡男が家を継ぐ……嫡妻以外の子は跡継ぎとならない。

 つまり叔父は、自分の出自を知っていようがいまいが、本家の家の跡取りとなり得る事は無い立場の人間だ。

 そして当主も彼の母も、その事は公言する事すら憚って育っている。その境遇の所為か彼は同性を愛して共に暮らしていた。

 細やかに人知れずに……。

 だが本家の嫡女として誕生し、その女を妻と迎えた父は、分家の当主として妻の実家の存続の為に、義父の遺言を実直に全うするべく叔父を当主に据えた。実父の事も知らされずに育った叔父が、どの様な言葉で言い包められたのか……花街の実母が如何様な事を知らせたのか……叔父は父の指導の元当主となり、一年程して家柄の釣り合う女性を娶った。


 叔父の盛大な婚儀の数日後……我が家に一人の美しい麗人が、父に連れられてやって来た。

 そしてその人は人知れずに、最近建てたばかりの離れにそっと、父に促されて入って行った。


「あの人をなぜうちで?」


 夜遅く母が父に、棘のある言い方で問い詰めるのを、微かに開いているドア越しを覗いて聞き入った。


「仕方ないだろう?雅哉さんがあの人を、何処かにやるのを許さないんだから……家督を継ぐ条件として、あの人を本家に置くと言う……そんな事は許される筈がない事で、それやこれやを、納得させるのに一年も掛かった……彼方のお母様の助言無しでは、どうにもならないのを……」


「……それとこれは別でしょう?なぜうちなの?」


 すると父は、嘆息を吐いて母を見る。


「やっとの思いで言い包めて、雅哉さんを結婚させたんだ……だがあの人の処に帰られては困るし……探されても困る……ならば私達の目の届く処に置いて、雅哉さんとの縁を断っているのを、確認できる方がいいだろう?」


「監視するって事?」


「ああ……雅哉さんが諦めたら解放する……」


「あの人が納得したの?」


「……雅哉さんよりは話しが早い……彼の為に全てを捨ててくれた……旧家の当主など、普通の人間がなれるものじゃない……それは普通の人間のあの人が一番知っている様だ……」


 母は納得したのかどうなのか、それでもその先を言わずに黙った。


「母も本宅を出たわ……父があの女に産ませていなければ……元哉が継げたかもしれないのに……」


「……君子さんの子の、春眞君にもそれは言える事だ」


「君子は妹よ?それに私は嫡女だわ……」


 母は再び険のある言い方をした。


「………確かに君達にとって本家とは、分家の私達が思いもできぬ程の重みがあるかもしれないが……君も君子さんも他家に嫁いだ人間だ、嫡流の男子がいるならその男子ものが継ぐのが妥当だ、それに何よりお義父さんの遺言が存在する以上、元哉も春眞君も只の他家の子だ……」


 父の落ち着き払い冷め切った言い方は、母の浅はかでそしてほんの僅かな嫡女としての自尊心を蔑視するものだった。

 その時の父の無表情と、その父を睨め付ける母の表情のその理由を、未だ子供の私には解り得ようはずはなかった。

 只あの離れの美しい人が、ずっと彼処に居てくれる嬉しさしかなかったのだ。


 私には二つ違いの妹がいる。

 当時の慣習通りに結婚した両親であったが、夫婦仲は良好であったと想像できる。

 本家の当主を象徴する様に、当時の男は女を外に囲うのが男の甲斐性とされた時代だから、本家を凌いで一族の中でも事業を幅広く展開し成功させている父ならば、故本家当主よりも多くの女が存在したとしても、親族はもとより母すらも文句は言えないものであったろうが、父は実に仕事に生き甲斐を得ている様な人であったから、他に女を囲う事など無いひとであった。だから母は女として一心に、父の愛情を得ているという事になるから、十一歳の私を筆頭に二つ違いの妹とその下に弟と妹が存在していた。


「兄様……」


 妹は私が帰宅するのを待っていたかの様に、手にしていた紙を見せた。

 其処には実に美しい桔梗の花が描かれていて、その色の美しさに私は目を見張って見入った。


「美彌子が描いたのかい?」


「違う違う。伽耶さんが描いたの」


「伽耶?」


「………ほら、離れのお部屋の……」


 私は離れに居る、それは美しい人の名を聞いて鼓動を高鳴らせた。


「………美彌子はに、行っているのかい?」


「ええ。お庭のお花をばあやと手入れしていたら、障子を開けておいでの伽耶さんと目が合って……」


 美彌子は、少し高揚した様に言う。


「すると窓を開けて、其処の桔梗を摘んで貰えないか?ってお聞きになるの。そんなのいとも容易い事だと、ばあやが何本か切ったのを、私が手渡しするとそれは美しくお笑いになられて……そしたら側の卓上にあった墨で、スゥーとそれは見事に紙にお描きになるの……そして私にお礼にくださったから、次の日に絵のお道具を持ってお邪魔したのが始まり……」


 ………なんと我が妹の大胆さに、只々感嘆なる思いである。


「………それでこの桔梗を?」


「ええ。伽耶さんはそれは絵がお上手なの。色々な花の絵を描いて遊んでいたのだけれど……」


 すると妹は、一拍間を空けて私を見つめる。


「もっとお花を描きたいとお言いなの……伽耶さんは此処に来る以前は、お着物の絵を描いたり染色をしたりしていたのですって……でも此処は勝手が解らないし、お父様に一人で出歩かない様に言われているのですって……裏のお山には、秋のお花が沢山咲いているでしょう?でも私もお兄様に、連れて行って頂くばかりだから……」


「なんだ?山を案内しろと言うのか?」


 すると妹は、ウンウンと大きく頷いた。

 私は可愛い妹の手を取って笑ったので、妹の美彌子も安堵の色を見せて笑った。


 その夜私は、床に入ってもなかなか眠れずにいた。

 あのほんの一瞬見かけた、父に連れられて新築の離れに入って行くかの人を目に留めた、あの日のあの人の白くて憂いに満ちた横顔が忘れられない。

 切なげで嫋やかで儚げで………今にも掻き消えてしまいそうな、そんな存在……。

 此処へ来る前は、着物の絵を描いていた?染色をしていた?

 そんな些細な事柄ですら、かの人の事を知るのが嬉しかった。


 数日後私と妹は、かの人を連れて山に入った。

 山といっても屋敷の裏に森林が在って、それがかなり広く存在するが、決して出て来れなくなる物ではないが、徐々に小高い山となって行くし、斜面を下れば蝮などが生息すると言われている処も存在するから、妹などは怖がって一人では入れない。


「もう少ししたら柿が成るね」


 伽耶さんはとても、嬉しいそうに私に言った。


「彼処の柿は渋柿だけど、此れは美味い柿がなりますよ」


「へぇ?そうなの?」


 伽耶さんの笑顔は美しくて、そして何故だろうやっぱり少し儚げだ。

 それでも私は、見惚れて見入ってしまう。

 そんなに奥に入る事がない処で、伽耶さんは幾枚かの紙に花の絵を描いていく。真新しい上質紙に鉛筆……決して安価な物ではない。

 私の目を惹いて仕方のない、美しい伽耶さんの躰に纏わせた、白く上品なシャツもズボンも靴も、纏う人にマッチしてそれは上品で上質な物だ。

 私は直ぐにそれを、誰が与えた物であるかを察して自分で驚いた。何故察するのか?何故解るのか……解るから驚いたのだ。

 まだまだ大人になれない子供の自分が解るには、二つの理由が存在する。

 その二つの理由を解るから……だからはきっと真実だ。


 そしてそれは直きに、真実として私の前に現れた。

 その日の夜は雨が降っていた。

 昼間は晴れていて、妹と共に伽耶さんと山に出かけた。

 柿が色好く色づいて食べ頃だった。

 私達は柿の実を落として食べ、その柿の実を伽耶さんは写生した。

 帰宅して夕餉を済ませた頃からポツポツと降り始めた雨は、寝る頃には音を立てて降っていた。

 私は伽耶さんの少し紅を差した頰を思い浮かべて、なかなか寝付けずに雨の音を聞いていた。

 ………そう最近の私は、伽耶さんを思いなかなか眠れずにいる事が多かった。だからその夜も、然程気にせずに雨音を聞いていた。

 大きく音を立てて降る雨の音……その音に掻き消え廊下を歩き行く足音……。

 私は床から身を擡げて抜け出すと、静かに音を立てずに障子を開けて覗き見る。

 何時もと変わらずの、無表情で真顔を作ったままの父が、その身が濡れる事も厭わずに離れへと向かう後ろ姿………。

 私は一種の嫌悪と憤りを持ってそれを見送った……そしてその夜、父が戻って来る姿を見る事はなかった。


 だがそれからも、伽耶さんとの生活は変わらなかった。

 伽耶さんは余り外に出る事はなく、妹と私とで山に出かける事ぐらいだった。

 そんな伽耶さんの事を、妹はポツリと私に言った。


「お庭に出てお花を描いていた伽耶さんに、お母様がお叱りになったんですって……」


「お母様が何て?」


「お父様の恥を晒すつもりなのか?って……どう言う意味?お兄様」


 私は自身の嫌悪と憤りが、決して間違いではない事を確信した。


「お母様は伽耶さんをよく知らないから、だからそう言うのさ。私と美彌子は伽耶さんの人となりを知っているのだから、今まで通りにしていればいいのさ」


 美彌子は嬉しそうに笑んだが、私は微笑み返せずにギリっと奥歯を噛み締めた。


 夫婦仲のよかった両親は、徐々にその間にわだかまりと隙間を作り、母は末っ子の元で寝起きする様になり、父は憚かる事なく離れを訪れる様になった。

 そんな生活が幾年続いただろう……。尋常小学校に通っていた私が、高等小学校を卒業する頃、伽耶さんが突如として姿を消した。

 父が与えた全てもの物を残して……。

 父は我を忘れて騒ぎ立て、使用人達に探し回らせ、血眼となって探したが伽耶さんは二度と離れに戻って来る事はなかった。

 それと同時に、本家の叔父が失踪した。

 その情報を聞いた母は、薄っすらと気味の悪い笑みを浮かべていた。

 伽耶さんと叔父の事を知っている者達は、叔父が年子の子供ができるのを待って、二人で駆け落ちした事を想像したが、誰一人として口にする者はいなかった。


 焦燥しきった父がそれでも諦められずに、未だに伽耶さんの行方を探している。

 哀れで滑稽で……なんとも形容のしようがない父の姿。

 あれ程に威厳と冷静さを兼ね持った、分家の身でありながら、旧家の血筋の良さを惜しみなく漂わせた父……その父が形振なりふり構わずに血眼となって、一人の美しい男を探し続けている。親戚の嘲笑う姿を他所に………

 初めての恋に狂ってしまったのだ。叔父の恋人に懸想して……。


「お父様は未だに探しているのね……」


 妹の美彌子は、主人が居なくなった離れの部屋で、棄てていかれた物達を哀れむ様に見つめて言った。


「………見事に全て捨てて行ったんだね」


「全て?」


 妹は、クスリと笑うと私を見た。


「………ああ……お父様が与えた物は全てね……」


「それはどういう意味だい?」


「……本家の叔父様の物は、全て持って行ってるわ」


「叔父様の物?」


「………つまり此処に、連れて来られた時に持って来た物……着て来た物を着て逃げたのね。それと叔父様からの手紙……」


「叔父様の手紙?」


 美彌子は、真顔を作って私を見る。


「同じ小学校のお友達に、叔父様の古いご友人の子供がいるの……その子から叔父様の手紙を受け取って、私が伽耶さんに渡していたの」


「なぜ?」


「最初はただお友達に頼まれたから……大きくなるにつれその意味が理解できたわ」


「それでも何故?」


 美彌子は、伽耶が残した幾枚もの絵を見て笑う。


「あの人は、お父様を狂わせお母様を苦しめるもの……それにあの人は叔父様のモノだもの……」


 美彌子は、私に視線を移して直視する。


「………いずれお兄様をも狂わせるわ……」


 私は心中を覗かれた様に衝撃を受けて、美彌子を凝視する。


「今度はお兄様がお父様から、あの人を奪おうとする……だからずっと叔父様の手紙を渡したの。何時も悲しげで儚げなあの人が……お父様が訪ねた後は、苦しげで辛そうなあの人が、それは嬉しそうにするの。目に涙を溜めて手紙を読むの……そして毎回私に言うの……ありがとう……ありがとうね……って……だからずっとずっと手紙を渡してた……」


 私は桔梗の花の絵を目に留めて、思わず笑いを洩らした。


「なるほど……そうだねー……いずれ僕は、あの人が欲しくなったろうね?お父様から奪い盗る程に……だけど結果は同じって事かぁ……叔父様の気持ちひとつで、持ち去られる程度のものでしかないのか……」


 血眼となっていた父が少しずつ諦めを持ち始め、その内何もなかったかの様な日々が過ぎて行き……私達兄妹に少し年の離れた兄妹が誕生した。

 女など囲った事のなかった父は、今や仕事だけではなく良き父となり、それは理想的な夫となった。


 

 …………時が経ち進学した私は、嫁ぎ先の決まった妹に付き添わされ、或る呉服店で桔梗柄の美しい着物を目に留めた。


「お気に召されましたか?」


「……ええ、美しい絵柄ですね?」


「そうなんですよ、実に美しい反物ものを作るんですが、時として珍しい絵柄を好む人でしてねぇ……ほら、これなんか……実に面白いでしょう?ウチの主人が気に入りましてね、無理を言って譲り受け仕立てさせたんです……」


 前片身だけに柿の木の枝が実を付け、後身にかけて柿の木が枝を張って、タワワに実を付けている。そして柿の木の元になる裾に緑の葉と柿の実が落ち、その中のひとつの実が齧られている。


「素敵な着物ですね……」


「左様ですか?お気に召されましたか?ですが申し訳ありません、これは売り物じゃないんですよ、主人の酔狂でして……」


「………そうですね……これは観賞用に丁度いい……」


 私がそう言っていると、妹は幾枚もの着物を指差して


「届けて頂戴」


 と指図しているが、案の定桔梗柄の青い着物を選んでいた。

 桔梗は私達兄妹には、それは忘れられぬ思い出となっている。

 美しくも儚げで憐憫を帯び嫋やかで悲しげな……そんな思い出の………。


 帰宅の車の中、妹と私はずっと黙して窓外を見ていた。

 少し大人になった私達は、あの頃の大人達の真実ほんとうの少しの事が理解できる様になっている。

 妹は嫁ぎ、直ぐに母の気持ちを知るだろう。

 そしてうに私は、父の気持ちを理解している。

 そしてもしかしたらの、叔父が生母に言い包められた言葉も………。

 叔父は、跡取りを得るまでの時を本家に買われた。

 叔父の生母は、家柄だけで得た本家の正妻に一矢いっし報いたかったのだろう。出自だけで蔑まされた母子……。

 正妻を本家より追い出し、我が子を本家の当主としたかったのだ。

 その母の気持ちを汲んだ叔父は、苦悩の果てに決断した。

 当主となり自分の血を継ぐ子を跡取りとし、その子が当主となるのを待って伽耶の元に戻る。もしかしたら、ほとぼりが冷め、伽耶が我が家から自由になった時点で、叔父は再び伽耶の元に通うつもりでいたのかもしれない。だがそんな悠長な事をしていられなくなったのは、父の本気の伽耶に対する執着だった。

 事のあらましを手紙にして伽耶に届けた叔父は、伽耶の我が家での立場を知る事となった………それでも、二人目の子ができるのを待ったのは………。

 違う。もはや伽耶が、堪え難くなっていたからだ。

 父に愛される事か……叔父のいない生活にか……それとも………

 今度は父から叔父が、伽耶を奪って行ったのか……。

 フッと私は車窓の喧騒を見つめながら、それは恐ろしい事を思い浮かべてそれを掻き消した。


 ……母が仕向けた……


 あの日……父が狂気して、伽耶を探させていたあの日……

 本家の叔父が居なくなったと情報を得た時の母の、あの薄気味悪い笑顔が忘れられない。

 私は隣で、同じ様に外を眺め見る妹を見つめた。

 きっと妹にも、母の血が流れている………



 その後、叔父と伽耶の話しは聞かない。

 否、知っていても誰も、私と父には言わぬのだろう………。

 大人になった私は、今度父と伽耶の話しをしてみたいと思う。

 同じ男を愛し、同じ男を思い続けているもの同士……。

 そして父は母に安らぎを求めたが、私は女に安らぎを求められそうにない……。




桔梗ききょう色………………伝統色のいろはより……

桔梗の花の様な青みを帯びた紫色で、秋を代表する色。

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