赤香色(あかこういろ)

第4話

「すぐ来て」


紅音あかねから連絡が入った。

寝惚け眼で時間を確認すると午前三時だ。

直ぐに覚醒して躰が火照った。


「解った。今どこ?」


「○○斎場……」


「解った。直ぐに行くから……」


高田遥大たかたようだいは、着替えもそこそこに慌てて部屋を飛び出して、駐車場の車に飛び乗った。

遥大の家から○○斎場迄車で三十分、それまで紅音は火照る躰と疼く肢体に身悶えている筈だ。

遥大がを目撃したのは、今から何年前だったか?

紅音が高校に入学して直ぐだったか……入学前だったか……。

その日遥大は進路について、紅音の父親の耀瞳ようどうさんに相談に乗ってもらっていた。

高田家はかの昔から、僧坊の主を勤めている家系で、貴いお方にお仕えした事もあるという。

そんな家系だから、遥大も僧侶の道に進むか否か悩んでいる。

遥大の父は耀瞳の兄で、かなり格が上の寺に請われて入り婿となっていて、跡取りとして兄が修行に出ているくらいだから、遥大は跡を継ぐ必要はないのだが、進路を真剣に考え始めた頃に、急にその世界に興味を抱いてしまった。

その為遥大は、叔父である耀瞳に相談しに来ていたのだ。

陽が落ちた居間で遥大は叔父を待った。

学校が終わって一時間半かけてたどり着いた時には、もはや陽が沈みかけていた。

明日は休みなので、泊まりがけでゆっくりと相談に乗ってもらえる。


「待たせたね」


耀瞳は楽な着物に着替えて、悩める甥を見て笑って言った。


「すみません。お忙しいところ……」


「ああ、今日はこの辺りで、大地主だった方の葬儀があってね……」


「檀家さんですか?それも大口の?」


「ははは……まぁ、そういうところなんだが……」


耀瞳は、若者視点発言に苦笑いを浮かべた。


「……しかし、遥大が興味を持つとはな」


「意外っすか?」


「意外だ。本当に吃驚してる……たぶん、兄貴はもっとだろうな」


「はい……実は、本気にされていなくて……」


「はは……だろうなぁ。兄の晃大は否応無しだが、遥大には選択する自由が与えられるし、何においても自由人の君がこの道に進むか悩もうとは、きっと誰も想像がつく事じゃなかった」


「はぁ?そこまで言われちゃいます?」


「生まれた時から知ってる人間は、皆んなそう思うと思うぞ」


笑ってはいるが、かなり真摯に受け止めて答えてくれている。


「まぁ、君の処は晃大がいるわけだから、君は君に合った道を、選んでいいんじゃないかなぁ?」


「つまり、俺には坊主は向いてないと?」


「……じゃなくて、君に合う坊主になれるって事。晃大が居なかったら、たぶん君は格式高いあの寺では潰されてしまうが、さすがは我が一族の血だ、ちゃんと適材適所に子孫が誕生している。晃大はあそこの寺に、産まれるべき跡取りの様な子だ、安心して遥大はどこへでも行ける……例えば此処に来てもいいぞ」


「は?何を?叔父さんには、紅音がいるじゃないっすか?」


「……そうなんだが……」


耀瞳が一瞬口籠った瞬間、本堂の方から悲鳴の様な声が聞こえた。

瞬時、耀瞳の顔色が変わって血の気を失したかと思うと、若くスポーツ万能な遥大が吃驚する程の素早さで駆け出した。

それにつられる様に遥大も跡を追う。

耀瞳は本堂の入り口に佇むと、ただ顔色を失して中を見入っていた。


「叔父さん」


遥大が叔父を凝視する。

叔父はただジッと本堂の中を食い入る様に見つめ、顔面を益々蒼白として歪めた。


「!!!!!」


遥大が叔父の視線に、つられるように目で追う。

本堂の中心で、紅音が仰向けに倒れてもがいている。

苦しそうに顔を歪め、目に見えぬ何かに怯える表情を作り、何かから逃れようともがいている。


「紅音!」


遥大が二つ年下の従兄弟に近づこうとした瞬間、紅音の衣服が何かに引き裂かれるのを見て、たじろぐ様に佇んだ。

引き裂かれた衣服の下には、紅音の白肌が惜しげも無く晒された。

そしてポッポッと、その透き通る程の白肌に、赤く跡が刻まれていく。


「紅音」


意を決して走り寄ろうとした遥大の腕を、耀瞳に制止される。


「……あれを……」


耀瞳はただ絞り出す様に遥大に言った。

紅音は艶めかしく悶えながら、目に見えない何かに弄ばれている。

まだ何も知らぬ紅音が……。

恥じらう事を忘れて悶え乱れて、激しく躰を揺り動かされて、陶酔の色を放ち、白く長い脚を隆起して大きく開き、艶かしい姿を見せて喘ぎ声を発して躰を硬直させた。

遥大は耀瞳の手を払いのけて、紅音の側に走り寄ろうとして、瞬時に弾き飛ばされた。


「!!!」


紅音の衣服はビリビリに引き裂かれ、躰のあちこちに激しい傷跡を刻まれた。


「ああ……」


紅音は声を発したかと思った瞬間、恍惚の表情を浮かべて宙に浮いた。

そして硬直させた躰から、ゆっくりと力を抜いて静かに沈んで床に伏した。


「遥大……」


耀瞳は茫然とする遥大の側に座すと、放心状態と化して天井を見つめる紅音を見つめて言った。


「我が一族が冥婚の末裔だと言うことは聞いてるかい?」


「ああ、冥府に夫を追って身篭ったという?」


「ああ……。俺達はそれで産まれた子供の末裔だ」


「まさか……」


「それはふしだらな妻の作り話しで、他の男との間にできた子供だと言う輩もいたが、子供が大きくなったら誰もそんな事を口にしなかった……その子供が死んだ当主に瓜二つだったからだ。だから我が一族には、不思議な力を持って産まれる子供がいる。〝持って〟産まれた者には解るんだ、その話しは本当だってね……。冥府で契り亡くなった者の胤を宿して生まれ出た子は、何処か違う処と繋がっている。その力がより一層強い子は、何かしらの影響を受ける。紅音はたぶん今迄の一族の中でも、一番その力を持って生まれた。当然遥大にも少なからず……あるはずだ」


「そんな……俺は感じた事が無い……」


そう言いながらも、遥大は少し考える素振りを見せた。


「晃大には……有ったかもしれない」


「我が一族の者は多少の違いは有るものの、たぶん〝持っている〟はずだ……。だが紅音のは、俺自身が信じられない〝力〟だ。俺も少なからず持っているから、多少の除霊もできるが……」


耀瞳はその先を躊躇う様に口を閉じた。

そして、身を苦しげに起こす紅音を見つめたから、つられて遥大も視線を向ける。


「紅音の躰に霊が吸い寄せられる。特に業が深い者や、欲が深い者が貪欲だ。そしてこの世の未練を紅音に求めるかの様に、紅音の躰をしつこくしつこく求めるんだ……」


「求める……って、あれはどう見ても……あっ?」


「霊は紅音に捨てきれぬ欲望を叩きつけて、翻弄し弄び……そして浄化されていく……」


「それって……」


「一方的で勝手な行為だ……紅音の躰に跡を残し傷を遺し……恍惚と快感と快楽を紅音から得て、そして一方的に果たして浄化する……遺された紅音には、躰の火照りと芯の疼きが遺される……苦しい程の、芯に遺る体内の持って行き場の無い火照りが遺される……」


「そんな。どうにかできないんすか?あれじゃまるで……」


遥大はその先を、言葉にする事を憚れた。


「俺にはどうにもできない……たぶん、相当な力を持つ者でも、どうする術も無い程の業と欲を持つ者達だ……もしも紅音が存在なければ、相当良くない物と化して、一族や周りの者に悪影響を与える者達だ……今日の葬儀は相当の人物のだった……昨夜の通夜では、何事も無かったから安心していたが……やはり俺に付いて来ていたんだな……紅音の匂いに誘われたんだろう……」


「紅音の匂い?」


「紅音はそういう〝力〟を持って生まれたんだ。己の躰で、邪悪になりかねない霊を浄化させる〝力〟」


「それって、修行とかでどうにかならないんすか?あんな事されないで、浄化する方法……」


「……残念ながら〝無い〟と思う。除霊の次元ではないんだ……あの業と欲の塊となろうとする邪悪な〝もの〟は、除霊とかの次元じゃない。ただ邪悪なものが、紅音の躰によって浄化される事だけは解る……紅音は我が子だから不憫でならないが、悪霊となると解っていて、放っておく訳にもいかない……まして、うちは寺だからな、そんな〝もの達〟を避けられない」


耀瞳は渋面を作って遥大を見た。


「遥大には本当に悪いと思うんだが、此処でこうして遭遇したのだから、災難だと諦めて欲しい」


「えっ?」


遥大は耀瞳の言わんとするその意図が解らずに、耀瞳を注視する。


「紅音が苦しいだろう……楽にしてやってくれないか?」


「えっ?ええ?」


耀瞳は、はにかむ様に遥大を見つめた。


「すまん。以前やってやったのだが……流石に背徳心というか……」


「やっ、でも……しかし……」


少しパニックになりかけている遥大に、耀瞳は詫びる様な視線を送って


「今夜の相手は、生前からかなりの〝人物〟だったからね……愛人なんて数えきれぬ程で、これから隠し子で遺族は大揉めだ……」


とか言いながら、上手い事本堂の戸を閉めて出て行ってしまった。


「まじかぁ……」


遥大はそう呟いて、物凄い力で衣服を破かれて、それは露わに艶を帯びて白肌を見せる紅音を見つめた。

その儀式の所為か、紅音は同性とは思えない程に色を放って遥大を見つめる。

その瞳が今迄見た可愛い女子よりも、綺麗な女性よりも艶かしかった。

そんな瞳で、荒い息を吐きながら見つめられたら、仮令異性でなくても変な気持ちが起きてくる。

そういう嗜好は持ち合わせてはいない遥大ですら、邪まな感情が湧き上がる。

遥大は立ち上がって、上気して荒い息を吐く紅音の側に寄った。

紅音は遥大を仰ぎ見て、それは切なさそうに遥大を誘った。

遥大は紅音に対座する様にすると、紅音が苦しげに身をよじる下半身に手を伸ばす。

するとそれよりも早く紅音は、遥大にしがみついて唇を奪った。

予期せぬ紅音の行動に一瞬たじろいだものの、それが引き金となって二人は抱き合いながら横たわり、そして現実なのか夢なのか解らぬままに身を一つにした。

たぶん耀瞳は、そこまでの行為を望んではいなかったであろうが、若い二人には流れに止まる、そんな我慢も辛抱もできる筈はなかった……。



斎場に到着すると広い駐車場に車を止めて、鍵をかける事も忘れて飛び出して斎場に向かって走る。

今頃紅音は、それは妖艶な表情を浮かべ、芯に残る疼きを鎮めてくれる者を待っている。

そんな誰をも誘い虜とする、姿を何人たりとも見せたくはない。


「どこに?どこに居る?」


遥大は電話を掛けながら走る。

呼び出し音は、なかなか主人を呼び出してはくれない。

遥大は急く様に玄関のドアに手を掛けようとして、建物の裏で聞こえる呼び出し音に気がついて慌てて発信を切る。

深閑とした斎場……。

建物の中は微かに灯りが見えるものの、その外はとても暗い。

四方に森林が立ち込める一角に在る斎場は、たぶん他の斎場よりも暗くて、それも深夜ともなれば、陰湿で霊気に満ちている。

坊主になる為の大学に通っていて、寺に生まれた遥大であっても、背中に厭な寒気が走り、空気に触れる肌はブツブツと鳥肌が立っている。


「紅音……あかね?」


遥大は声を落として建物の裏に足を運ぶ。

ひっそりとした空気の中、妖しげな息づかいが聞こえる。

ざわざわと木々が揺れる中……。


「は……や……く」


紅音は遥大と察したのか、それとも違う男を誘っているのか、苦しげな息づかいを向けて来る。


「紅音?」


遥大は慌てて紅音を抱きしめて、そのまま紅音の下肢に手を添えた。




「耀瞳さんから連絡がなかったぞ」


遥大は紅音を抱いて車まで来ると、助手席に紅音を乗せて、シートベルトを装着しながら言った。


「呼ばれた。こんな事は初めてだ……父さんとは関係無い筈なんだが?何時何処で目をつけられた?」


そう言うと、運転席に乗り込んだ遥大を見つめて手を握った。


「今日のヤツは相当なヤツだった……」


「………」


遥大が注視するその顔を、ジッと見つめる。


「ネチっこく弄ばれた……」


「………」


「……そんな顔しないで、遥さんの辛そうな顔を見るのは……」


紅音がそう言って横を向く。

その仕草に、惹きつけられる様に唇を合わせた。


ただ紅音の疼きと火照りを、落ち着かせるだけの存在……。

そう叔父自らの依頼で行なって来た行為が、それだけの行為ではなくなる迄に、そう時間はかからなかった。

直ぐに遥大が紅音に絡め取られた。

子供の頃から、一際綺麗な顔立ちは年を追う毎に、目を見張るものがあった。

姉の彩音よりも、可憐で美しい弟……。

それは邪悪な欲望と業を持つものを惹きつける為に、エサとして天が授けた美貌かもしれない。

現生の理に逆らって得た子供には、何かしらの罰が与えられるのか?

それが紅音なのか?

車を走らせながら、無惨に紅音の肌に残る、強欲な霊の断末魔に残した〝跡〟を見る。赤く点々と見える、吸い跡を連想させる〝痕〟。

背中には爪痕を連想させる傷〝痕〟。

毎回その〝跡〟を覗く度に、遥大は言い表す事のできない嫉妬と怒りを覚える。

数限り無い見えぬ〝もの〟にいたぶられ、弄ばれる恋人……。

相手を顧みない程の、躰に残される火照りと疼き……。

それは一方的な、ただ身勝手な行為だ。

急に襲われてなぶられ、犯され陵辱を繰り返され興奮の極み迄持っていき、そして一方的に己の生前の業と欲の全てを紅音に吐き出して、そして昇天していく。

残された紅音には、ヤツの業と欲が体内に残される。

ヤツの業と欲の分だけの、火照りと疼きが苦しめる。

まるで、冥界迄押し駆けて冥婚を成し遂げた、その業と欲を責め立てる様に……。

その罪を、ただ紅音だけが一身に受けている様に……。


紅音の家……寺に着いたのは、そろそろ空が白みはじめた頃だった。

助手席で疲れ果てて、寝息を立てる紅音を見つめる。

遥大は紅音を起こさぬ様に、静かにシートベルトを外した。

顔が近づいて、紅音の微かな息がかかる。

その息を遥大は一心に受けながら、首筋に赤く点々と残された、忌まわしき〝跡〟を見入った。

それら全てを、自分の唇で吸い尽くしたい。

悪しき邪悪な跡を……。

遥大が唇を付けると、紅音は目を開けて遥大を見つめた。


「また、全部吸い跡残すの?」


紅音は可愛い笑顔を作って言う。


「毎回の儀式の様だね?」


「お前は俺のもんだろ?」


「えっ?そうだっけ?」


遥大が真顔を作って紅音を見つめるのを、まるで面白がる様に紅音は遥大に笑顔を送る。


「……じゃ、ここじゃまずくない?もう直ぐ父さんが起きて来る」


「それって……認めたって事?お前は俺のもんだって……」


「さあ?それはどうだろう?」


紅音は楽しむ様に遥大に言う。


「……遥さんしか触れられたくないけどね」


「……だけど、だったら、お前は誰にだって縋り付くよ」


「そうなの?」


紅音は一瞬顔を歪めて言った。


「妖艶な荒い息を吐きながら、男を誘う」


遥大はそう言って瞬時に後悔した。

紅音が想像だにしなかった程の、悲痛な表情を浮かべたからだ。


「……だったら……誰よりも早く側に来なよ」


「だから、そうしてるだろ?」


遥大は後悔をしながら、可愛い紅音にキスをする。

長く長くキスをする。


「耀瞳さんが解ってる場合は、連絡をくれる……これって、俺のもんって事だろ?」


遥大はそう言うと、車を発進させた。


「何処に行くのさ?」


「お前の全身にの吸い跡を残しに……」


すると紅音は、満足の笑みを浮かべて遥大を見つめた。



あの始めて紅音の秘密を目撃した時に、耀瞳さんに相談していた通り、遥大は仏の道に進む事にした。

だがそれは、その時悩んでいた理由とは、別の理由が存在する。

紅音程ではないにしろ、因縁の冥婚の末裔である遥大も、多少のものは持っている。

だから、遥大は仮令苦行と噂される物であれ、厭わずに修行をする。

そして必ず紅音にかけられた呪縛を解いて、真実自分だけの物にする。

業の深い強欲なヤツの餌食にはしない……。

その躰をエサに、ヤツ等を浄化させたりはしない……。

だが未熟な今の遥大が唯一紅音にできる事は、真実の愛のある繋がりだけだ。

とことん自身の全霊をかけて、捧げる愛のある繋がり……。

その果てにある意味のある快楽と快感は、決して欲望だけの化け物達に犯されるとは決して違う、愛しさと幸せがある事をその躰に教え込む事だ。

一方的に残る火照りと疼きが、遥大によって一瞬にして幸せと愛しさに変わる事を叩き込む。

遥大はそうせずにはいられない。

そうでなければ、二人の関係は何の意味も無くなってしまうから。

自分の存在が、紅音には何の意味も無くなってしまうのが怖いから。



ホテルの一室で遥大は紅音の、引き千切られた洋服を脱がしていく。

それは優しく愛おしげにキスを繰り返し、愛を込めた熱く切ない眼差しを一心に送りながら。

紅音は従順に目を閉じて、恋人の愛を受け止める。

透き通る白肌に刻まれた刻印に、遥大は時間をかけて自分の吸い跡を残していく。

その全ての行為が終わらない内は、決してシャワーで洗い流させないのは、ヤツらの悪業を全て遥大自ら吸い尽くし、紅音の躰を清める為だ。

ただのシャワーの水などで、洗い清められないと遥大は嫉妬と怒りで思い込んでいる。

ヤツらの全ての〝跡〟は、遥大が吸い尽くさねば気がすまない。

未熟で力の無い自分への怒りがそうさせる。

紅音はその儀式の間に、どんどん体温を上げていく。

先程迄の、謂れの無い虚しさと屈辱に堪ながら、上げさせられる行為とは違い、幸せに満ちた興奮の果てに上昇する体温は、その行為の果てに行き着く極みに誘って欲しいと、切に恋人に望む物で、その願望を羞恥する事無く紅音は遥大に口にする。

遥大は紅音の全ての〝跡〟を清めたと確認をすると、紅音の肢体を持ち上げて要望に応え、紅音は恍惚の色を放って狂おしい程に縋りつく。


「愛してる……」


遥大は幾度も幾度も紅音の耳に囁く。

愛が自分達を繋げているのだと、紅音に思い知らせる様に。

愛が無くては自分は決して、こんな行為はしないのだと思い知らせる様に。


「うん、うん……」


そして紅音は必ず苦しげに頷く。

頷く事しかできない様に……。

天国と極楽の極みに、ふたりは同時に辿り着いて力を抜いていく。

必ずふたりの手は固く握られたまま……。


……伴にいこう……


互いに誓い合う。




赤香あかこう色……………伝統色のいろはより……

赤みがかった淡い橙色。

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