恋愛アドベンチャーゲームの序盤が最終決戦仕様だったら

KP-おおふじさん

第1話 最終決戦(最終回)

 俺は読者だ!!今ッ眠っている!!!人間の営みの原始的な睡眠という欲を……すっかり解消しているところなんだ!!!!!そんな俺の元にズドドドという地響きが聞こえてくるぜ!


「うおおおおおおお!!!読者御兄様!!!起きてえええええええええええ!!!」


「な、なにぃぃい!!!?!?!?」


 ドア!!開かれるッ!!!一体!誰だ!!俺の安眠を邪魔するやつは!!可愛い声を張ってやがるぜ!!その気合は買おう!その子は俺の部屋に侵入しハイパープレスサンダーヒールアタックを俺に決めてきやがった!!一体何が起こったってんだ!?


「誰だ!?お前は一体誰なんだ?!」


 朝日の逆光がその影を強める。後光のような光が俺の目をまるで灼くようだ!!っく、眩しい!!まだ毛布を手放す訳にはいかない!!!!


「わたくしは……そう、あなたの妹……義理の義妹(いもうと)ッ!!西香ですわ!!!」


「なっ……西香……だってッ?!?!」


「そうですわ御兄様……わたくしが今ここへ来た理由を……あなたならわかっているでしょうッ!!!」


 西香……俺の親父の再婚相手の娘の西香だ!まさかこんな朝から姿をあらわすとは思わなかったぜ……!


「一体……一体なんのためにお前が!!はっ、さっき起きてえええええと言っていた……俺をッ起こしに来たってのか?!」


「そのとおりですわ御兄様……あなたには悪いですがその眠気、覚まさせていただきます!!くらあえええええ!!!」


 西香にはとてつもない美貌がある。俺の妹にしておくにはもったいないほどの美しさだ!だがそれと比例して、こいつは性格が超絶に悪い!今だってそうだ、わざわざ目覚ましがなる直前に起こしに来やがった!!


「やめろ西香!!まだ起きる時間じゃない!!目覚ましはあと10分後に鳴る予定だったんだ!!せめてあと5分!5分だけ寝たいんだ!寝かせてくれ西香!!!そうしないと今日の5限目まで……体が持たないときが来ているんだ!!!」


「ならばわたくしを倒して寝なさいなあああああ!!!!」


「俺は寝る!なんとしてでも!!眠るんだ!!!西香ぁああああああ!!!」


 寝なければならない!俺は!!だから俺は西香のサンダーヒールを受けながら布団に籠もったッ!


「起きなさい!御兄様ぁぁぁぁ!!死ねぇぇぇぇ!!!オラオラオラオラオラ!!!!」


 そして見た目と声だけは可愛い西香の容赦ない攻撃に耐えながら5分の睡眠を取ったのだった……!!ぐーーぐーーぐーーーー!!!!



 そして俺は戦いの疲れを癒やすように母親の作った朝食を食べ、頃合いを見計らって家を出た……。ちなみに西香のヤツはお嬢様学校に通っているから俺とは違う時間に登校する。だから俺は一人で征かなければならない、学校へ……!!!まだ足のグリップは生きてる……よし、ゴーだ!(BGM: EUROBEAT)


 制限時間は30分しか無い……ッそれまでに学校の見える場所にいけなければ俺は……遅刻をしちまうッ!


 だが大丈夫だ、時間に余裕はある……!俺は必ずあの場所へたどり着ける!!!俺は砂煙を立たせながらマッハ一億万のスピードで進んだ。だがそんな俺についてくるやつがいる……?!一体誰だ!!?!

 

「どおおおおおおくしゃくううううううううううんんん!!!!」


「ハッ!!!!!その声は!!!!真凛かッ!!!!?」


「おはよおおおおおおおおおおお!!!!!!はい!!!これ今日のお弁当ぅぉおっ!!!!!!」


 彼女は……幼馴染の真凛!!!違う学校へ進んでしまったが幼稚園からずっと一緒の……こいつとは腐れ縁ってヤツだ!!!しかし相変わらずとんでもねぇパワーを秘めてやがるぜ、俺のスピードについて来れるんだからな!!!


「真凛!!!!今日も元気だな!!!!!弁当ありがとよぉおおお!!!今日のおかずは一体なんだ!?なんだって言うんだ!?!?」


 この真凛、家事における潜在能力はこの俺を超えている。掃除に料理が大好きな家庭的な女の子でいつも俺のお弁当を作ってきやがるんだ!!しかも……お互いの両親公認でな!!!厄介なことだぜ!!


「はんばああああああああああああああぐッ!!!!!!!そしてお野菜ッ!!!ですよッ!!!」


 ハンバーグ!?あの肉をこねてやいたハンバーグだと、真凛は言ったのか!!なんてこった……!俺のツボを抑えてきやがった!!


「最高だぜ真凛!!!もちろんにんじんは入れてないな!!?!」


「にんじ、ハっ!?……ふかしたにんじんを……入れちゃいましたぁッ!!!」


 その言葉を聞いて、俺は1兆京万ボルトの雷に撃たれたかのような感覚を覚えた。その感情は簡単にショックという言葉では言い表せない。ショックだった。


「な……にんじん、入ってるのか……!?どうしてだ真凛!どうして?!俺は!!にんじん嫌いだって言っといたじゃないか!!!!」


 俺は魂の訴えを起こす!!届け!俺の想い!!!


「でも……でもっ!!すっごく美味しくできたんです!!きっと美味しく食べられるもん!!それにわたしの旦那さんになる人は好き嫌いをしませえええええええん!!」


「それは子供の頃の他愛の無い約束ッ!?でもだったら!!俺の嫌いなにんじんをッ!にんじんいらないよって話も覚えておいてくれよ!!!すまない真凛!今日はにんじん、残すかも知れんッ!!」


「ダメですッ!!偏食はいけませんッ!!ちゃんと食べないと……だめなんでぇえええす!!」


 しまった!真凛はこれまでいくつものシリーズ内作品を爆発オチにしてきたパワーがある!怒らせたらダメな人物ナンバーワンだったんだぜ!!


「やめろっ!やめろ真凛ッ!お前がその力を使ったら世界がッ……やめろうわあああああああああああ!!!!!!」


 俺は真凛を中心に巻き起こる混沌の波動に巻き込まれ、体を上空高くへと飛ばされていった!なんとか世界は終わらなかったが、このままでは俺が大気圏を突破して宇宙の塵になっちまう!!!意識を失いかける俺が最後に見たものは俺の偏食癖を治したい真凛の姿だった……!


 だが……こんなところで終わってたまるか……!俺は体勢を変え体を北西方向に向ける!そう、こっちには学校がある!!!このまま突入する!!


「じゃあなまりーん!お前のにんじん頑張って食ってみるぜぇぇぇぇぇ!!」


「いってらっしゃあああああああああああああい!!!そういうとこが好きなんですよおおおおおおお!!!」



 俯角良し!仰角わからん!俺の教室(2-2組)の窓が見える!この角度で行ける、入れる!!


「うぉおおおおおおお!!!届け!!届けぇええええエエエ!!!」


 手を伸ばしながら俺は教室の窓を突破し、その両足で火花を散らしながら着地した……!だが角度が甘い!!倒れる!このままじゃ廊下に出ちまう!!そうしたら俺は誰かと接触事故を起こして相手を怪我させちまうかもしれない!!だから止まれ!俺の体よ!止まってくれ!!


「止まれええええええええ!!!!」


 俺の靴はキィイイイ!!と甲高い音を立てて教室内をまるでアイススケートでも滑るかのように進んでいく!いけないこのままでは!廊下にッ……!間に合わない!!!頼む!みんな逃げてくれ!避けるんだあああああ!!!!


「させるかあああああ!!」


 ズゴーと滑っていく俺の体を片手一本で止める者がいた。そのしなやかで細くも強靭な肉体を持つ彼女の名を俺は知っている。


「ハッ!あなたは!!留音先輩?!どうしてここに!?!ここは二年生の教室のはずだ!!!あなたは三年生でしょう!?」


 そうだ、彼女は俺の所属する”超最強流格闘部”に所属する一年先輩っ……俺の教室にいるわけがない!


「あんたはバカだよ!あんなに元気に飛び込んできたら教室くらい間違える!ここは3-2組だ!そしてあんたは3年生の廊下にものすごい速度で飛び出そうとしている!!だからあたしはそれを止める!!なんとしてもね!!!」


「留音先輩ッ……」


 俺の飛び込み角は完璧だと思っていたのに上級生の教室に飛び込んでいたっていうのか……!俺はなんてバカだッ!!!だがこのままでは留音先輩を巻き込んで廊下に飛び出てしまう!


「先輩ッ!もう手を離してくれ!このままじゃあんたまで一緒に廊下へ転がり出てしまう!そうなったら誰と接触事故を起こすかわからない!そうなってしまうのは俺だけでいい!先輩を巻き込む訳にはいかない!!!」


 もしもあんまり知らない人と盛大な接触事故を起こしてみろ……!俺はまだいい!上級生だ、知らない人がほとんどなんだから……!でも留音先輩は同級生と接触することになっちまう!!もしもそんな事をしたらあとで気まずくなっちまうに違いない!!なのに先輩はッ……!そんな俺の心を読むように、留音先輩は俺の顔を見据えて言った。


「馬鹿野郎!!!そんな事を考える間にその足を止めなよ!それに……!あたしとあんたが力を合わせて出来ないことなんて……無いっ!!」


 ハッ……とした。そうだ……俺と留音先輩なら不可能を可能にすることだってきっと不可能じゃないと言っても過言ではないような気がするかも知れない……!!だったらやるしかない!なるようになれだ!


「わかった……!ならやるぞ先輩!!!ブゥストオォ!!!」


 俺は背中からジェットパックを生やし、フルスロットルで教室内でジェットを起動した。それは留音先輩も同じだ。風になるぞ、先輩ッ!!


「行っけええええええええええええ!!!!!」


『ツインバード!!!!!』


『ストラアアアアアアアアイク!!!』


 俺の靴と留音先輩の上履きが擦り切れるほどの轟音を立ててTドライブで教室内を滑っていく。もう3-2組は崩壊だ。すべての机は木っ端微塵に粉砕され、このクラスの上級生全員が俺を見ている。そして俺は留音先輩とダンスを踊るかのようにクラス内をぐるぐる周りながら次第にスピードを落とし、そして……。


「止まった……止まったよ!留音先輩ッ!!」


「あぁ……あたしたち、ついにやったんだ……止められたんだよ。これでお前は廊下にマッハの速度で飛び出して上級生に目をつけられる事も無いだろうね。よかったじゃないか」


 留音先輩はそう言うと俺の背中を押して廊下へ優しく導いてくれる。


「先輩……悪かったな、教室、ぶっ壊しちまってさ」


 俺は留音先輩の靴の辺りを見ながらそう言った。先輩はぶっきらぼうなイメージがあるが靴下はピンクのハート柄だ。


「良いんだよ、あんたに怪我が無いほうが大事だろ、大事な部員なんだからな」


 さすが超最強流格闘部最強の通り名を得て所属をマネージャーに変更した先輩だ。優しいことを言ってくれるぜ。


「先輩……」


「なぁあんた、次はいつ部活に出るのさ?」


「さぁ……俺はいつでも風の呼ぶまま、過ごすのさ」


「なんだよ……あんたが部活に出てくれなきゃあたしが所属してる意味無いんだけどな……」


 いつもはっきりと喋る留音先輩が、珍しく呟いたのか?


「えっ?なんだって先輩?」


「別に、なんでもないよ!」


 そうして俺は彼女と別れて自分の教室に戻っていく。だがその途中で学校が突然揺れ始めた。そしてボロボロと崩れ落ちていく校舎……!俺は瞬間的に察した。俺がさっき砕き尽くした3-2組の教室にはこの学校を支える柱の一本があったんだ。それを徹底的に破壊し尽くしたことでこの学校に甚大なダメージを与えてしまったのだと……!


「まずい、このままでは学校が崩れ落ちちまう!!!でも一体どうすればッ!!」


 既に校内放送では退去せよと警告が鳴り響く!!だがこうなってしまったのは誰の責任だ!?俺じゃないか!!!逃げるわけには行かない!なんとしてでもこの学校の崩壊を止めなければならない!!!


「あなた!一体何をやっているの!?早くグラウンドに避難しなさい!!」


 立ち尽くし、ミシミシと亀裂の入っていく学校の中にいた俺に声をかけたのは女性の声だった。相手は気づいていないようだが俺はこの声を知っている。


「その声は、衣玖先生!!!」


 そうだ、彼女は史上最高の頭脳(IQ763万兆億.2)を誇る才女でハーバード大学を胎児の頃に卒業していて、俺より年下なのにこの学校で教鞭を取っている学校名物の衣玖先生だった。


「あっ!読者君!こんなところで何をやっているの!私がこの崩壊を食い止める!だからあなたは早く外へ!私のことはいいから!」


 見た目は小さな少女のようだがその心は立派に先生になっている!こんなに生徒想いな人をこんなところに残しておく訳にはいかないぜ!


「ダメだ先生!この事態を引き起こした原因は俺にあるんだ!先生一人に任せられるか!俺も手伝うッ!」


「まったくッ……こうして問答している時間がもったいないわね!崩壊はこの学校の中核、2-2組の教室で食い止めるッ!来たければ来なさい!!」


 さすが天才の衣玖先生だ、飲み込みが早いぜ!それにしても俺の教室が崩壊の中核になっているとはな!運命ってのはつくづく皮肉屋だな……!!


 俺はいち早く教室にたどり着くため、先生の小さな体をプリンセススタイルで抱き上げた。


「わわ!ちょっと読者君!何をするの?!」


「先生は体育苦手だろっ!このほうが早いぜ!!俺は最短ルートも知ってるしな!!」


 そう言って俺は男子トイレへ入り、その窓から飛び出て窓縁を三角蹴りの要領で自分の教室へ侵入した!今は窓が割れちまうなんて小さな事言ってられないぜ!!


「……もう、この事については後でじっくりお話するわ。今はこの学校の崩壊を……止めるッ!!」


「あぁ!先生!!でもどうやって止めるってんだ?!いくら先生が大天才だからってもう半分以上崩れ落ちちまってる……!」


「心配しないで……こんな事もあろうかと私は魔法を身に着けておいたのよ!!」


「な、なんだって?!!?先生は科学系の人間だとばかり思っていたのに!!」


「ふっ……天才は様々な事象も味方にする……!魔法だって科学の延長線上にある超自然現象なのよ」


 そういって先生は腰に背負っていた自分の背丈ほどもある木の杖を割れた教室の床に突き立てた!!!そこからゆっくりと魔法陣が展開していく……すごい、本当に先生は魔法を使っている!!!


「っく!!!崩壊の波動が強い……私一人じゃ……ぐああああああああ!!!!」


 だがその魔法を持ってしてもこの学校の崩壊を食い止める事ができていなかった。先生の魔力、体力では崩壊の進行を遅らせる事が精一杯なのだ……!くそっ、俺は見ていることしか出来ないのか!!?


「っぐ、くはああああ!!なんていう崩壊波動なの!これはただの学校の崩壊じゃない……!この”地球のへそ学校”の崩壊に連動して地球そのものが崩壊しかかっている……!!ふふっ、これは私でも、流石に計算外ね……ッ」


 なんだって?!俺はずっとこの学校の名前、つまり地球のへそ学校というのを変な名前だと思っていたが、本当に地球のへそにある学校だった事が判明した!!


 だがなんの運命のいたずらか、地球の中心にあったせいで俺の破壊した学校の支柱一本でそんなことにまでなってしまって……!だがへそは人体の中心。ここが地球のへそだと言うのなら初めからその可能性を加味しておくべきだった……!俺は……なんてバカだ!!


「まずいわね、このままじゃッ……読者君、ごめんね、先生だけの力じゃ君を守ってあげることも……できそうにない……っ」


 あの大天才の衣玖先生がこんな弱音を吐くなんて……なのに俺は……俺はッ!!何も出来ないっていうのかよ!!!


「だめだ……」


「読者君……?」


「先生も、この世界の皆も、滅ぼさせてたまるか!こんなふざけた理由で!!俺が……俺が!!!みんなを守る!!!!」


 そして俺も先生が手をかざす木の杖に手を添えるようにかざす。すると杖から放たれる魔法陣が強い光を放ちながら一気に複雑な模様になり、広がっていく!!!


「これはッ……読者君、あなた一体!?その体の紋章は!」


 一体何が起こってると言うんだ……?俺の体に突然入れ墨のように全身に光の紋様が浮かび始めた。そして額には稲妻のようなマーク……今なら何でも出来るような力が湧いてくる!


「そうか、読者君……あなたの名前、読む者、という名前は”地脈の流れを読む者”から来ているのね……!」


「先生、俺にはよくわかりません。でも力が溢れてくる……!今ならこの崩壊を止められる気がするんです!」


「わかったわ。なら行くわよ読者君!最強の魔法を使うわ!一緒に唱えて!”天光満つる処に我は在り”……」


 呪文だ……でもなんだ、この感覚……!俺はこの呪文を……知っている!?俺の口は自然とこの呪文の続きを紡ぎ始める……!!


「”黄泉の門開く処に汝在り”……」


 先生の驚いた顔が俺の方を見た。俺だって驚いているさ、先生……!だが俺たちは詠唱を中断するわけにはいかない。詠唱を止めること無くアイコンタクトで頷くと、お互いに杖に手をかざし、詠唱の最後の一節を唱える!


『出でよ!神の雷!!!』


「インディグぅぅ!!!」


「ネイショオオオオオオオオオン!!!!!」


 暗い空から降り注ぐ豪雷の放つ閃光が俺たちの身を包んだ。崩壊しかけている学校に直撃した神の雷は崩壊しかけている校舎を塵一つ残さず燃やし尽くし、その存在を地図上から消し去った。これでもう学校の崩壊に連動して地球がなくなってしまうことは無いはずだ。


「やったわ……やったわよ、読者君……!」


「あぁ、先生のおかげだ……あ、あれ?俺の体からタトゥーみたいなのが消えていく……」


「きっと役目を終えたのよ。あなたはこの地球を守った……だからその力は、あなたの中でもう一度、眠りについたのよ……」


「あぁ、そうだな……ありがとう先生。俺は始めて本当の自分を見つけられたような気がする……」


「ふふ、私もよ。天才が何かを学ぶって事もあるのね……あなたは私に、新しいことを教えてくれる存在なのね……」


 座り込んだ先生の手を取って、俺はグラウンドで避難していた皆の元へ歩き始めた。みんな、終わったよ。俺、世界を守ったんだ。


「おーい!衣玖ー!読者ー!」


 衣玖先生と子供の頃から知り合いの留音先輩が手を振って俺たちの方へ走ってくる。その様子がついに俺にすべて終わったという感覚を与えてくれた。行こう、みんなの場所へ。



 みんなのいる場所にたどり着き、談笑する俺の視界の中に一筋の光が見えた。眩しすぎる光。その存在が放つオーラを、俺は直視することが出来ない。その存在は崩壊した学校の敷地内にある一本の木、通称”伝説の樹”……その樹の下で告白したカップルは永遠に幸せになるというその木の下に、その存在はいた。あの子は一体誰だろう。俺の心はたった今世界を救ったのだという事を忘れ、その子に完全に奪われていた。


 そして事態は更なる窮地を迎える……インディグネイションを呼んだ雲はまるでブラックホールのように渦を巻き、そしてその中からこの世のものとは思えない存在が顔を出したのだ。


「なんだありゃ……?!」


 留音先輩が俺と同様の感想を言った。一体なんなのか見当もつかない。だが顔と手があるのはわかる。形としては人間とほとんど変わらない。でもあれは巨大すぎる。


「もしかしてあれは……」


 天才の衣玖先生は古い文献で読んだことがあると、こう教えてくれた。


「世界が破滅する運命から逃れた時、ファイナル・デッドシリーズばりに本来終わるべきだったものを終わらせる存在……その名を”タナトス”……あれはきっと地球を終わらせに来た魔神、タナトスよ……」


「そんなっ!?衣玖先生、何か破滅を回避する方法は無いのか!?タナトスを倒す方法は!?」


「わからない……でも文献にはこうあった。その星から一人、最高の花嫁を献上することで破滅が免れる、ってね……」


 最高の花嫁……文字通りの意味なのか?それとも何か他に隠された意味があるのか?俺は何もわからなくて頭を抱えていると、その存在、タナトスは一つの光をじっと見つめていた。


 まさか。


 俺は直感した。あの伝説の樹の下にいる光の存在、あの子を見ている。最高の花嫁……そうか、あの天使にも見えるあの子こそ、最高の花嫁候補だったんだ。


「お、おい、まずいぞ衣玖……タナトスの野郎、あの子を見てやがる……!」


「ルー、学校では先生を付けてって……まぁいいわ。ふん、そうみたいね」


「そうみたいねって、なんとかしないとあの子が連れ去られちまうんだろ?!」


「えぇ……それだけは絶対に阻止しないと……!」


 どうやら二人はあの子を知っているようだ。俺はあの子を知らないが、でもやることは一つしかない。


「あんな意味のわからない存在に地球が脅かされてたまるかって話だよな、二人とも。やってやろうぜ!俺たちの手で!」


「あぁ!」「えぇ!」


 最強チーム結成だ!とは言ってもあんなに巨大な存在だ、俺達にどう太刀打ち出来るってんだ?そうして見上げる俺たちの後ろから、声が聞こえてくる……!


「読者御兄様ーー!」


「読者くーーん!!」


 俺は声だけでその二人の存在を認識していた。だから振り返るのと同時に二人の声を呼ぶ。


「西香!!真凛!!!」


「御兄様……なんだかとんでもないことになっているようですわね……加勢に来ましたわ!」


「わたしもですよぉー!あの子に手を出そうなんてタナトス、許しません!!」


 この二人の登場に留音も衣玖も驚いていた。聞けばあの子も含めた五人は以前から面識があったんだそうだ。俺の知らない場所で全員つながっていたなんてな。そんな繋がりを持つ人達の世界を……俺は守らなければならない!!


「よし!みんな!!俺に力を貸してくれ!!!!跳ぶッッッ!!!」


 俺は地を蹴り、タナトスに向かって跳躍した!!このままヤツごと突き抜けてやる!!!!


「うおおおおおおおおおお!!!!!ここからいなくなれええええええええええ!!!!」


 俺は三角形に変形しタナトスに突撃した!!!だが俺はやつの体に当たった途端弾かれ、千回転して止まった!!俺じゃなければ体が細切れにちぎれていたかも知れないッ!!!


「ぐああああああああ!!!あのタナトスって野郎、攻撃しても少しも手応えがねぇぞ!!」


「小さき人間よ……攻撃は無駄だ……吾は死の概念、タナトス……死は倒すことは出来ない……」


「概念……だと!?だが……俺は地球のため、みんなのため、お前に負けるわけにはいかないんだッ!!!!!!」


「戦いで吾を消すことは出来ぬ……吾は汝らの星を差し出すか代わりに純白の天使を差し出す以外に吾を消すことは出来ぬのだ……」


「させない……させねぇよ!死の概念、タナトス!!俺たちの生きる意思で!貴様の闇を払ってみせる!!!そのためにみんなの力を借りるぞ!!!うおおおおおおおおお!!!」


「私の魔力を使って!」


 衣玖先生!さっきあれほど消耗したばかりだったのに!!


「読者!!あたしの力も使え!!」


 この気は留音先輩……オラに気を分けてくれるってのか!?サンキュー!


「御兄様!!わたくしのお金も!!!」


 西香!確かに受け取ったぜ!この570円で帰りにおつかいのトイレットペーパーを買うぜ!!


「わたしのパワーも使ってください!!!!」


 真凛のパワーも!なんだかこれが一番えげつない力を秘めていやがる!!


 ありがとうみんな……!!これでやつを倒せる……!俺は超覚醒した!!!俺の名は……超読者だ!!!!


「感じる……みんなの力を……!!俺に貸してくれ!!!!行くぞみんな!!タナトスを倒す!!!」


「ば、バカな……この力はッ!!」


 俺の力は地球の光となり、この地球のへそという場所を介してタナトスに向かって力の奔流が溢れ出していく!!その媒体となるのはあの伝説の樹……そうか!地脈の通じるあの場所には特別なパワーがあったんだッ!


「みんな!!あの場所へ!!」


 俺の号令に呼応したみんながあの伝説の樹の下に立つと伝説の樹はそれに応えるようにその力を増し、伝説の樹はタナトスを宇宙の彼方へ押し出すように光の波動を纏って成長していくかのように巨大化していった。その光が広がって……俺達の地球を包んでいった。そしてタナトスを巻き込み、それは宇宙へ向かって成長していく!!


「タナトス!光になれええええええええええええ!!!!」


「ぐおおおおおおおおおお!!!」


 死の概念、タナトスは地球の生命の光に焼かれ、その影を小さく、そして次第に消していった。


「地球に光が……広がっていく……」


 そしてこの世界、地球そのものが伝説の樹の枝葉に覆われていく……俺はその光景に……何故だか涙が止まらなくなってしまった。


「みんな、ありがとう……あ、あれ……?」


 体に力が入らないことを不思議に思った俺は自分の体を確かめるように自分の手を見ようとしたが、眼下に広がっていたのは広大な青い地球だった。その地球のどこからか声が聞こえてくる。それは俺を助けてくれたみんなの声だった。


「終わったな、みんな……でもあたしたち、誰かに助けられたような気がするんだ」


「そうね。私も覚えているわ。死の概念タナトスに一人で向かっていった誰かの影を……」


「わたくしも何か……大事な家族を失ったような気持ちがありますの。一体これは……?」


 みんなが俺を覚えていないようだ。そうか……俺は地球と一体となってこの身は力の奔流の一部となったんだ。俺が見上げていたはずの伝説の樹こそが俺になった。地球を守る概念としてこれからも存在していこう。


「そうですね……誰かが頑張ってくれたような気がします。おかげで地球も、みんなも……そしてこの子も守れたんです」


 だがこれも悪くない。俺はここからみんなを見守っていよう……これからもずっと。みんなと共に、俺、読者はいつもここにいる。




「それにしても……なんか空、異様に白くね?」


「そうですわね。今夕方なんですけど妙に明るくて鬱陶しいですわ。お昼寝してる人は朝かと思いますわよ、きっと」


「だよな?可哀想だよ、気持ちよく昼寝してるのに」


 ……あれっ?


「多分タナトスの影響ね。闇の存在を倒してしまったからきっと明るくなっているのよ。真凛、あの白いの消せる?」


 ちょ、ま


「おやすい御用ですえい!(不迷即行)」


 あっ(パッ)

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