ミュンヒハウゼン出版百年史

  大木曽出版(編)


 「貴書よりも奇書」をモットーに今から百年以上前に設立された出版社がミュンヒハウゼン出版です。そのラインナップは奇矯きわまりないものであり、設立以来、好事家たちを唸らせ続けています。本評論でも、同社が手がけた数多くの作品を紹介してきました。


 本書はそうしたミュンヒハウゼン出版の沿革を綴ると共に、これまでに出版した全ての書籍を紹介する目録の機能も備えたものです。当連載でも紹介している書籍も含めた計七千八十冊の書名と概要が並んでいます。


 きわめて詳細で同社の歴史に興味を持った方に対してはこれ以上ない史料であることは確かなのですが、問題は、この書籍がミュンヒハウゼン出版の発行物でもなんでもない、というところでした。


 出版元の大木曽出版は、本書を流通されるためだけに個人が立ち上げた出版企業であるとのこと。代表者の大木曽八郎氏は、ミュンヒハウゼン出版の書籍を全て読破したと称するミュンヒハウゼン出版マニアであり、長年の蓄積を注ぎ込んで本書を出版したのです。


 これに対して、ミュンヒハウゼン出版側の対応は粋なものでした。勝手に出版された自社の目録に対して抗議や回収依頼を唱えることもなく、快く販売の続行を許可したのです。


 「珍書ばかり扱っていた我が社としては、我が社の事業を基に新たな珍書が生まれることに対して歓迎こそすれ、怒る理屈などございません」


 (同社代表取締役、爵寺公輔氏談)


 こうして、本書は「ミュンヒハウゼン出版が売っていないミュンヒハウゼン出版の目録」として現在でも書店で流通しています。いっそのこと、ミュンヒハウゼン出版側で版権を買い取ってはどうか、との話も出ましたが、「ウチで出さないままの方が面白いから」という理由でお流れになったそうです。


 


(このレビューは妄想に基づくものです)

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