ライアー出版崩壊の記録
ライアー出版
日本書籍業界において、伝統的に「奇書」の出版を請け負ってきた三大出版社と言えば、ミュンヒハウゼン出版、偽計社、そして本書が扱っているライアー出版でした。
本書は一人の社員が手を染めた作家監禁事件によって同社が倒産の憂き目に至るまでの記録です。
これまで述べて来たように、ライアー出版は一般的な嗜好や流行から外れた、いわゆる「奇書」を中心に出版事業を続けてきた企業でした。このようなモットーの元に題材をチョイスする編集者には、広範な分野に対する教養が求められますが、それ以上に不可欠なのが好奇心です。埋もれていた珍本、無名の鬼才、未知の科学技術……それらに対して興味を持ち続けられなければ、同社のようなモットーを持つ出版社ではやっていけません。これは同社の編集者に限らない話かもしれませんが。
同社の編集者であったA氏は、そうした好奇心が枯れ果ててしまった一人でした。
新分野の開拓に疲れてしまったA氏は、とはいえ職を辞するつもりもなく、編集者としてヒットを飛ばさなければならないというノルマに脅えていました。面白い本を作らなければ。奇書を世に問うて、人々を驚かせなければ……自分自身を追い詰めたA氏は、とんでもない奇策を実行しました。簡単に言うと作家を脅して執筆させるというものです。
グルメルポライターに推理小説を、純文学作家にボーイズラブを、スポーツエッセイストに俳句評論を書かせたら、きっとちぐはぐな作品が出来上がることだろう。一流の書き手であればあるほど、文章自体には力が込められ、一方で興味のない題材であることから全体的な空気は奇妙な印象になるはずだ。この方法を使えば、コンスタントに珍書・奇書を生み出すことができる。問題は、作家に専門外の執筆を強要する方法だ。これは、単純に「カンヅメ」していただく他にはない。(本書120ページより抜粋)
おそらく思いついた時点でA氏の精神はまともなルートを外れていたのでしょう。企画の一作目を書かせようと、グルメルポライターを出版社近隣の廃墟に三日間監禁した時点で犯行は発覚、A氏はお縄となりました。A氏の犯罪は、「他の編集者も同様の手口を駆使しているのではないか」との憶測を招き、同社の株は急落し、倒産に至ったという次第です。
ここまで読んで、ライアー出版に詳しい読者は疑問に思われたかも知れません。ライアー出版は最近も新刊を発行し続けているはず。倒産なんてしていないのでは――と。
その通り。上記のエピソードはすべてフィクションです。ライアー出版自身が、ありもしないライアー出版の崩壊事情を出版して読者を煙に巻いたのでした!ちなみに本書の発売日は4/1でした。
うかつに手を染めればそれこそ炎上してしまいそうな本書の企画ですが、出版社が出版社であることから、比較的、好意的に受け入れられたようです。
(このレビューは妄想に基づくものです)
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