シガーはろくでなし
ジョナサン・リュック、マーク・セッター、ドナルド・エゴラン他(著)
北向浩明(訳)
ライアー出版
アメリカ、ケンタッキー州に伝わる民謡、「シガーはろくでなし」を題材にしたアンソロジー小説集です。
版元のライアー出版の依頼を受け、アメリカの著名な小説家数名が腕を振るったアンソロジーであり、後世にも評価されている名短編集なのですが……
じつは「シガーはろくでなし」は出版社の創作だったのです。
ことの発端は、版元の社長と副社長の間で交わされた無駄話でした。
物書きというやつはしったかぶりをする連中が大半だな。「●●●」を知っていますか?と適当な言葉を並べたら、大抵の連中は「知っている。ずっと前からね」と訳知り顔をする。(社長)
それでいて、自分の嘘を覆い隠す術にも長けていますからね。聞いたこともない出来事を題材にした小説を仕上げるなんて、朝飯前でしょう。(副社長)
どうだろう。ありもしない音楽をテーマに執筆を依頼したら、それなりのものが出来上がるんじゃないか?(社長)
面白そうですね。(副社長)
という流れで、架空の民謡である「シガーはろくでなし」のアンソロジー執筆依頼が七人の作家に寄せられたのでした。出版は1974年と、インターネットもウィキペディアもない時代です。作家たちは「そんな歌知らない」と言い出すことはなく、全員、二つ返事で依頼を受けました。驚くべきことに、依頼された七人、全員がです!
ネタばらしは、本書巻末の編集後記で記されました。自分たちが担がれたことに気付いた作家達の負け惜しみもまた、似通ったものでした。
「もちろん、一杯食わせるつもりだったってことくらい、気付いていたさ。ただ原稿料が魅力的だったからね」(ジョナサン・リュック)
「私は見破ったが、他の作家達は騙されるだろうと考えていた。彼らがどんな作品をでっちあげるものか、楽しみだったのさ」(マーク・セッター)
「サプライズパーティーと同じさ。ひっかけられたフリをしなかったら、皆、興ざめだろう?」(ドナルド・エゴラン)
……色々突っ込みどころはありますが、どの短編も優れた作品であったことは確かであり、本書はその年のUSA短編集賞を受賞しています。
(このレビューは妄想に基づくものです)
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