最強病原体決定戦

  ショーア・リヴァプール(著)

 足柄綱紀 (訳)

 ミュンヒハウゼン文庫


 2014年、ルーマニアとハンガリーの国境近くに位置する寒村、スヴォクボナで、悪趣味極まりない実験が繰り広げられました。

 エボラ出血熱、SARS、カンタリジン様臓器糜爛熱、ルイス3型病原虫症候群、北京呼吸器不全熱……罹患すれば数時間~数日で死に至る様々な伝染病の病原体を注入した施設に死刑囚数十人を送り込み、最終的に全員の死因がどの病原体によるものになるかを確認するというものです。タイトルの通り、最強の病原体を決定するバトルロイヤル。本書は極秘の内に終了した実験資料を偶然入手したアメリカのジャーナリストの手により編まれたものです。


 本書によると、実験を主催していたのは「ルーマニアの旧社会党系政治団体の影響が色濃い医療機関」ということですが詳細は不明。死刑囚達がどのようなルートで調達されたのか、そもそもどの国の死刑囚だったのかも判然としません。ただ、実験の経過として、番号が割り振られた死刑囚達が日に日に命を落として行く様が淡々と記述されています。 


 実験は五日で終了しました。施設内から回収した遺体を検査したところ、全員、全身の内臓が爛れ機能不全に陥ったことによる栄養不足が原因で死に至っており、他の病原体を押しのけて大量死を生み出したのは、『カンタリジン様臓器糜爛熱ウイルス』という比較的マイナーな病原体であることが判りました。この結果は主催者たちにとっても意外なものだったようです。不謹慎なことに、彼らは病原体にオッズを付けて賭けの対象にしていたのですが、このウイルスの人気は最下位だったからです。カンタリジン様臓器糜爛熱は1970年、ネパールの僻地で爆発的に流行したものの半年程で収束した風土病でした。適切な治療を施せば死亡者の数もある程度は抑えられるものであったことから、エボラやSARSといった「スター」病原体が生み出す病に比べて、効果は薄いものと見なされていたのです。


 「病原体を兵器として活用する場合、必ずしも過去に大量死を招いたそれが有用であるとは限らない」

 

 実験は、そのように締めくくられています。この文言を読む限り、実験主体はバイオ兵器の開発を目論んでいたようですが、その後、実験の成果がどう活かされたものなのかは判らないままです。


(このレビューは妄想に基づくものです)

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