ハイブリッド竜巻自伝
ハイブリッド竜巻 (著)
ミュンヒハウゼン新書
ハイブリッド竜巻(1930~2004)は、伝統芸能の一つである誘神楽(さそいかぐら)の第一人者として知られていた踊り手です。
誘神楽は皇室行事の一部にも取り入られている由緒正しい演舞であり、一説には芸能の神として知られるアマノウズメノミコトがアマテラスオオミカミの前で披露した舞曲が原型になっているとも伝えられています。
伝統を誇る誘神楽の第五十三代継承者であった竜巻が、自身の舞踏に限界を感じ、大胆な方法でステップアップを試みたのが1999年のことでした。(余談ですがこの時点まで、彼女は代々継承されていた芸名である『竜巻章台』を名乗っていました)
簡単に言ってしまうと、竜巻の実験は、「記憶喪失になることによって、肉体に刻まれた純粋な反射運動としての舞踊を完成させる」というものです。
ストイックに芸事へ精進する秀才であっても、栄誉や評価を求める功名心からは自由になれません。そういった雑念が、不純物として舞に悪影響を与えると考えた竜巻は、懇意にしている脳外科医に依頼して、自身の記憶を全て消滅させたのです。(もちろん違法。医師の名前は明かされていない)
2000年一月、観衆の前に姿を現した竜巻は、誘神楽を舞う以外、話すことも、食事すらおぼつかない舞踏機械に成り果てていました。同時に彼女の披露した舞は、歴代継承者を遥かに凌駕するものであり、芸事に詳しくない素人であっても神域に達していると人目で理解できるような天才の技そのものに進化していたのです。「ハイブリッド竜巻」はその後、少しずつ思考力を取り戻した彼女が名乗った新しい芸名です。
しかし、彼女の絶技は制限時間付きのものでした。公演を続けるうちに、次第に記憶が蘇り、並行して技の冴えも失われ始めたのです。2003年に引退を宣言した竜巻は、二度目の記憶消去処理に手を染めることはなく、本書を執筆しながら余生を送りました。
本書は舞に全てを捧げた超人の一代記であると共に、芸事を退いた芸能人の静かな余生を記すエッセイとしても趣のあるものであり、分野を問わず、芸能人を中心に広く読み継がれています。
(このレビューは妄想に基づくものです)
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