童貞/処女進化論

  マリキ・シュガー(著)

  母沢良寛(訳)

  ミュンヒハウゼン文庫


 主に先進国を中心に、恋愛観の相違やコミュニケーション能力の格差によって交際相手を見つけることができない個人の存在が問題視されています。

 本書はこれまで喪男・喪女と蔑まれていたこうした人々を弁護すると共に、彼らこそ人類の進化に寄与するところが大きい存在であると主張するものです。


 喪男・喪女を攻撃する材料として、彼らのせいで出生率が低下してしまうという論拠があります。とくに先進国では将来的に年間出生率が1.0を切りかねない数値の推移が続いており、配偶者をつくらない男女の存在は、国家の、ひいては人類という種そのものを滅ぼしかねない、というものです。


 生物学者である本書の著者は、このような危惧について否定的な見解を述べています。


「仮に、世界中の男女が性交を試みないような未来が訪れたとしても、憂慮する必要はない。生物とは状況に適応するものだ。ある種の微生物やハチがそうであるように、人類の肉体は変容を生じ、性交を伴わない妊娠が発生することだろう」


 ようするに、誰も生殖行為を行わないようになれば、女性はひとりでに妊娠するというのです。さらに著者は、男性でさえも細胞を変化させて子供をつくれるようになる、と予測を述べています。


「ホモ・サピエンスの歴史は、十万年程度の浅いものである。今後、この種族が発展を遂げる上で、従来通りの生殖方法のまま存続するという根拠はない。ホモ・サピエンスが他の生物とは比較にならない程、肉体的、精神的な刺激を受容する種族であることを考えると、何らかの変化が訪れない方が不可解と考えるべきだろう」


 本書の後半で、著者は人類が単性生殖を獲得するまでの時間を計算しています。その試算によると、世界中の人類がセックスを中止した場合、十年後には三十パーセントの人類が、単性生殖可能な固体に「変成」するというのです!


 この試算から論述を進めた著者は、聖母マリアはこうした単性生殖可能な個体の一人であったのではとの推論も立てています。

 本書は同性愛者・純血主義者の一部から熱烈な支持を集めてはいるものの、現時点では、著者の主張に従って単性生殖を実行しようという挑戦者は現われていないようです。



(このレビューは妄想に基づくものです)

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