戦争に愛された男たち

  ジョナサン・コック(著)

  鹿島初音(訳)

  ミュンヒハウゼン新書


 第二次世界大戦に出征した元・兵士達のインタビューで構成されたドキュメント。 

 インタビューは、連合国・枢軸国を問わず、ある共通点を有する兵士を対象としたものです。 

 その共通点とは、「激戦地に投入されながら、無傷で帰還した」というもの。

 爆撃、機銃掃射、地雷……第一次大戦にも増して殺傷力の高い兵器が大量に使用された二次大戦では、会敵した兵士の大半が負傷を免ることができませんでした。


 しかし、世の中には幸運児と呼ぶしかない人々も存在します。地獄の釜のようなシチュエーションに放り込まれながら、奇跡的にかすり傷一つ受けることなく生還した8人のラッキーマンたち。本書では彼らの戦場での体験と帰還後の人生について掘り下げています。


・爆風に吹き飛ばされ落ちた川の先に滝壺が待ち構えていたものの、溺死も墜死も免れたグエン・ドンジョアン

・地雷が大量に敷設された田園地帯に迷い込み、三十分間に計八つの地雷を踏みつけてしまったが、それらが全て不発に終わったマーチン・ハルトマン

・七回、捕虜になったがその度、収容所に爆弾が投下され、都度無傷で脱出できた舞浜幸次郎


 本書では、女神の祝福を受けたとした評する他にない彼らの、復員後の人生についても頁数を割いています。

 ドンジョアンは、「自分には幸運を掴むチケットが約束されている」という信念を抱くようになり、戦後は投資家に転身して財を成しました。

 ハルトマンは、自身の運勢について「絶体絶命の窮地に追い込まれる不運と、そこから脱出できる幸運の両方に恵まれている」と解釈を下し、戦場カメラマンや紛争国家専門の特派員として名を馳せました。

 幸次郎は、「自分の幸運は戦争で全て使い果たした」と諦念を抱くようになり、出家して僻地の寺院で隠遁生活を送ったそうです。


 このように、無傷で生還したという共通点を持ちながらも、その幸運をどのようにとらえ、その後の人生に反映させて行ったかは各自の性格、倫理観、社会性に左右されるところが大のようです。

 そういった意味で本書は、戦争を題材にしたノンフィクションというより、人間の多様性を明らかにするための作品と言えるかもしれません。




 

(このレビューは妄想に基づくものです)

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