孤立生命

  野分緑(著)

  偽計社新書


 本書は、1960年~70年代にかけて生物学会を席巻した『孤立生命仮説』について概説を述べたものです。


 孤立生命仮説、とはどのようなものか。簡単に説明すると、「極端な突然変異により誕生した生物が環境に多大な影響を及ぼすが、数が僅少であるため、後々の世界からは観測ができない」というものです。一例として、恐竜が絶滅した年代を挙げましょう。恐竜絶滅に関しては、隕石の激突説や氷河期の到来説が唱えられていますが、孤立生命仮説では、「恐竜を絶滅に追い込む程の強力な生物が発生した」という推論を立てます。この天敵は数億匹の恐竜を死に追いやる程の脅威でありながら、個体数が極めて少ないため、化石には残らなかった、という考えです。


 孤立生命仮説を適用すると、考古学、古生物学、歴史学等、様々な時代のターニングポイントに見られる疑問点を解決することが可能です。謎の大量絶滅、理由不明の大移動、根拠の見えない遷都の記録……これら出来事の裏には、「現代からは観測できない生物」の存在があったのだと仮定することで、見つからないピースを埋めるように、パズルを完成させることができるからです。


 とはいえ、この仮説は次第に支持を失っていきました。不明点、疑問点の解釈としてなんでもこの仮説を当てはめる怠慢極まりない研究論文が増加してしまったため、「想像力の欠如を穴埋めしているに過ぎない」と批判を浴びたからです。

 最終的には、「孤立生命とは神様を言い換えた妄想に過ぎない」とまで断じられるようになり、本仮説は提唱から十年程度で棄却されてしまいました。


 現在では孤立生命仮説という言葉は、科学者の思考停止を意味する用語として否定的に使われるのみとなっています。

 しかし科学や研究というものは時には道を逸れ、時には間違いを乗り越えて発展を遂げるものです。本仮説もまた、そうした試行錯誤の一ページとして、後世に語り継がれるべき挿話であることは確かでしょう。

  


(このレビューは妄想に基づくものです)

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