アナザー・ガン

ウインチェスター・ボーモール(著)

 兵頭一正(訳)


 ミュンヒハウゼン新書


 銃は火薬の爆発により弾丸を射出しています。

 

 子供でも理解している理屈です。人類が生み出した最もメジャーな殺傷兵器として世界中に広がっている銃ですが、発明から数百年を経てなお、基本的な原理はそのままです。


 しかしながら、優れた技術の裏には、その技術とニーズを競った二番手、三番手のアイデアが存在します。

 銃もその例外ではありません。ようするに、ものすごいスピードで弾丸を撃ちだすことができるならなんでも構わないのですから、火薬以外の技法で銃を作り出そうとした技術者達は数多存在します。本書は、そうした火薬以外の原理を使用した「アナザー・ガン」を、試作品が作成されたもの、設計図段階で頓挫したもの、企画倒れに終わったもの等、網羅的に紹介する書籍です。


 ①ハイト・ガン

  この場合の「ハイト」とは高低差を意味する言葉です。マンションの屋上から小石を放り投げて見ましょう。ちっぽけな石ころであっても、1階の植木鉢を粉砕するほどの凶器へと変わります。これはエネルギー保存の法則に沿った現象です。ハイト・ガンはこの法則を応用したもので、銃の上部から細長いパイプが数十メートルも高く伸びた形をしています。パイプの頂上から落とした球体は、銃身に落下した時点で爆発的なエネルギーに変換され、銃弾を押し出します。設計図の段階で、「このような長いパイプを持ち歩くのだったら、大砲を持って移動するのと変わらない」「そもそも細っこいパイプを切られてしまったら終わりではないか」とツッコミが入り、開発には至りませんでした。



 ②スチーム・ガン

  蒸気機関車が実用化された際、とある機関士が発案した機構です。当初の蒸気機関車はその希少性から、上流階層や富裕層しか乗車券を購入できない高価なものでした。ならず者にとっては「お金持ちが乗り込んでいる箱」に映るわけで、いかにして犯罪者に襲撃に対応するかが急務とされていました。その際、考案されたのがこちらのスチーム・ガンで、蒸気機関から伸びたパイプと銃が一体化しています。列車内で犯罪者が暴れだした場合、機関士はこの銃を使ってならずものを制圧することになってしました。アイデアとしては悪くないように思われたのですが、実際に試作品をこしらえてみると、蒸気機関の稼働状況によって弾丸のスピードの変化が激しいと判明、お蔵入りになってしまいました。



 ③ハデス・ガン

  ハデスはギリシャ神話の冥府の神。英語では「プルート」と呼ばれ、プルトニウムの語源とされています。察しのいい読者諸兄はお分かりかもしれませんが、ようするに原子力を動力源にした銃兵器です。製作されなかった理由は言うまでもありません。

 

 上に挙げた三例は、すべて理論的には可能なものですが、本書には設計図そのものが怪しい銃器も収録されています。エーテルガン、マントラガン、ブラックホール・ガン等、名称だけでも胡散臭さが伝わってくる珍品もありますので、是非愉しんで下さい。


 いずれにせよ、一つの機構、発明品が主流となる裏には、様々な企画倒れの品や失敗作があるものだと分からせてくれる好著といえるでしょう。




(このレビューは妄想に基づくものです)


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