無意味・空疎スピーチ大全

カーラ・マックスヒルト(著)

 青木町俊兵(訳)


 ミュンヒハウゼン新書


 近頃、政治家や事業家がマスコミに出演した際の発言について、とみに空疎化が著しいと批判が高まっています。

 一度口を滑らせたら、ツイッターやフェイスブックに瞬く間に失言が広がり、アンチや敵対勢力に全力で叩かれる……

 そういう現状では、発言者達が及び腰になるのも仕方がないことかもしれません。しかし、物事には限度というものが存在します。


 本書は、ここ二十年の間、世界中の重要会議や記者会見で会見を行ったセレブ・文化人・実業家・政治家等の発言から、「中身がない」と酷評されたもの

だけをとくに厳選して収録したものです。一例として、2006年のスウェーデンで開催されたRIC(環境問題相互解消会議)にてIT企業家のゾショネル・ヒッパーが口にした提言を掲載します。


         


 温暖化問題を解決するためには「ライフ・リンカネーション」の充足が肝心です。

 「ライフ・リンカネーション」とは人類の生活環境を自然と調和させ、始まりと終わりを同一の価値に収束させるための還流を意味する言葉です。

 人の一生は母体より姿を表すリジェクト期から肉体・精神の修養を測るセミカインド期を経て社会の一因子として貢献するスクラム期に至り、最終的にはセミ・リンカネーション状態で最期のときを迎えます。

 そのため私たちサイレント・ノックスは、セルフ・パーティーションの髄を駆使して、現在、嵐のごとく吹き荒れているエスケープ・アンド・デストロイ・プログレスに立ち向かわなければなりません。

 各国政府は基本的に環境問題に大しては月光浴を日光浴と重複させるようなスタンスを貫いている様子ですが、これは大変な見当違いであると評さざるを得ません。全世界の市民が手を取り合い、従来の山賊的愛憎行為を立憲君主制的協調行為に還元できるよう、黙祷と花言葉労働を地道に繰り返すべきでしょう。花言葉労働とは青色眼帯運動で提唱された方策で……(後略)






 一部抜粋です。

 このとき、ゾショネルは長広舌を十五分に渡ってふるいましたが、「さっぱり意味がわからない」等と聴衆の反応は散々なものでした。

 恐ろしいのは、このスピーチが本書の「無意味・空疎ランキング」で十位に留まっているという事実。選評によると、「かろうじて環境問題のことを話してい

るらしいと推測できるので、上位にランク付けするほどではない」とのこと。

 より上位にランクインしているスピーチの空虚さはどれほどのものか。

 気になる方は、本書を一読して確かめてください。



(このレビューは妄想に基づくものです)

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