失われた臓器



 相田惣一 (著)


(ミュンヒハウゼン文庫)



 1965年七月、中国、華北地方で黄河の土砂に埋もれていたミイラ数十体が偶然、河川工事の折に掘り出されました。

 その後の調査により、これらの遺骸は十五世紀に起こった黄河大氾濫の犠牲者であることが明らかになりました。

 密閉に近い状態で土に埋もれていたため、遺体の保存状況は極めて良好でした。そのため中国政府は、数体分の解剖を医師に命じました。


 当初、解剖の目的は数百年前に生きていた人間の食生活や健康状態を調査するというものでした。ところが、予想もしていなかった事実が明らかになったのです。一人目のミイラを解剖した際、解剖学者は胃と小腸の間に、見慣れない袋状の組織がぶらさがっていることに気付きました。

 担当医はこの組織を奇形、あるいは腫瘍の一部だろうと推測しましたが、二人、三人と解剖を重ねた結果、推察は誤りであり、この組織塊はミイラにとって生得のものであるに違いないと結論付けました。

 その後、世界中から中世~近世にかけての解剖学文献を取寄せた担当医は、それらの挿絵に同じ形状の臓器を見出しました。それまでは、ろくに解剖もせず適当に描いたのだろう、と黙殺されていたものでした。


 ようするに十五世紀の人間の体内には、


 この「謎の内臓」は何の役目を果す部位だったのか?残念ながら、ミイラの組織細胞はすでに死滅しており、その働きを再現されることは不可能でした。

 加えて、この内臓を胃と小腸に繋いでいた紐状の部位は中途が塞がっており、胃と小腸の間で酵素の類を往来させる仕組みにはなっていないことが明らかになりました。

 

 「この臓器は十五世紀のミイラの肉体にとっても、すでに無用の長物になっていた部位と思われる。そのため数百年後には跡形もなく消失してしまったのだろう」

 解剖学者は、このように結論付けています。


 では、一体いつごろ、何のために獲得された臓器なのか?いつから、どのような事情により無意味なものとなったのか?残念ながら、それらを解明するのは検体が足りないため、この「謎の臓器」に関する研究は暗礁に乗り上げたままです。





(このレビューはすべて妄想に基づいたものです)

  

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