惑星館殺人事件
グエン・シッカー(著)
野中和文(訳)
(ミュンヒハウゼン文庫)
インドのパンゴン湖畔に位置するラジニーアント記念河川学研究所は、国内のミステリ・ファンにとって聖地と見なされています。
この研究所に所属する研究員の中から、同国の優秀なミステリー小説に贈られるクリシュナ賞を受賞した作家が四名も輩出されているからです。
本書の著者、グエン・シッカーもその一人。元々、研究の気分転換として書き始めた小説ををミステリ雑誌に投稿したところ絶賛を受け、出版の運びとなっ
たのがそもそもの始まりでした。彼の成功に刺激を受けた同僚の研究員たちも自作を投稿したところ、いずれも高い評価を受け、全員が作家デビューを果
たしました。ミステリ小説であること以外、作風も文体も異なる作品でしたが、どの作者も熱心なファンを獲得することに成功、一躍ベストセラー作家となりました。
インド国内の年間ベストセラー十位以内全てを、彼ら四人の著作が占めていた年もあった程です。
しかし、輝かしい「河川学研究所産ミステリ黄金時代」は突如として終わりを告げました。
1996年12月、研究所で発生した原因不明の爆発事故により、シッカーを含むミステリ作家兼研究者全員が還らぬ人となってしまったのです。
本書はシッカーの遺作です。事故の直後にWEB上に保管されていたものを編集者が見つけ出したものですが、出版には二年の歳月を要しました。
時間がかかった理由は、本作の根幹となるトリックが成り立っていないからです。
解決編で探偵が解き明かす密室トリック。その説明が全く説明になっておらず、謎が解明されていないのです。
編集者は頭を抱えましたが、シッカーの遺作が読みたいという読者の要望に押され、結局、遺稿をそのままの形で出版することを決めました。
以来、インドのミステリ・フリークの間では、この小説に関する謎解きが続いています。シッカーは最後にトリックを考えるタイプの作家で、まだトリックを思いつかない内に亡くなってしまったのでは?あるいは作中に暗号が隠されていて、それを見つけ出したらトリックが解明できるのでは?それとも遺稿を発見した編集者が食わせ物で、秀逸なトリックを他の作家に売りつけるため、遺稿を書き換えた結果なのでは……
人々の邪推を招いた理由として、シッカー達が手がけていた研究の内容がどこにも残されていないことが挙げられます。河川学研究所は主に洪水対策に関して多数の研究成果を発表している施設ですが、シッカーを含む四名は一切、論文を発表していません。彼らが同研究所に所属していた職員であることは間違いないようですが、その施設の中で何をしていたのか、全く記録が残っていないのです。
研究所は公表できない類の学術研究に手を染めており、シッカーたちはその従事者だったのでは?
シッカーは、研究成果をミステリのトリックに適用することを思いついた?
だから口封じされてしまった?
出版後、二十年を経た現在でも、インドミステリ界ではまことしやかな噂が囁かれ続けています。
(このレビューはすべて妄想に基づいたものです)
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