雨中の鼠
ミント
第1話
雨が身体を叩く。
1層勢いを強めて、冷え切った身体から更に、熱を奪っていく。それなのに、傘も差さずに、公園のブランコに座る。
周囲に人影はない。それは、そうだろう。豪雨とも呼べる雨の中、外に出るなんて、余程の理由がないとしないだろう。
必然的に私には何らかの理由がある訳になるのだが、生憎と大層な理由がなどない。
唯、帰りたくないだけだ。否、もう帰れないんだ。
私は先刻まで、とあるバンドのギターを務めていた。丁度2時間程前まで。
私は、所属していたバンドを追い出された。厄介払いだろう。乾いた笑いしか零れない。
私のバンドは、それほど有名ではなく、知る人ぞ知るバンドだった。その分コアなファンが多く、彼らの力もあってか人気がではじめた頃だった。
そんな時期になんで、追い出されたかって?
方向性の違いというやつだ。新メンバーの加入にあたり、演奏の技術をとるか、顔をとるかで意見が別れたんだ。その結果、私は孤立し追い出されたという訳だ。滑稽だよな。意地を貼り続けた結果、居場所をなくしたんだからな。
そんなことをしている間にも、身体は濡れている訳で。早く、移動しないとダメだと思う。長時間雨に晒されるのは、まずい。その位はわかる。
でも、行動しようと思えない。笑える話だが、やる気がでない。
死にたいのかよ。死にたいかもな。
突如として、雨音が変わった。
「この音は……傘?」
微かに、傘を叩く音が聞こえる、音は次第に大きくなって、同時に足音も大きくなってくる。
人影が現れる。男だ。ビニール傘をさし、全身を黒に包んだ男が近寄ってくる。身長は170程度だろうか。眼鏡をかけ、柔和な面立ちをしている。
「何をしてるんだい?風邪をひくよ。」
優しい声音でそう声を掛けてくる。
「……別に、なんだっていいだろ。あんたには関係ないじゃないか。」
対象的に、突き放した声。
「まったく、手厳しいなぁ。こっからは僕のエゴになるんだけどねぇ。君、僕の家に来ない?」
「……お前おかしいぞ。」
冷淡な声。疑うのも当然だろう。常人ならこの天気の中、外に出ようと思わないし、こんな人間に声をかけないから。ましてや、自分の家に連れ込むなど口にしないだろう。
「僕はおかしいかもね。まぁ、君には付き合ってもらうけど」
そう言うと、手を取って私を立たせる。私が立ったのを確認して、手を引いて歩き始める。
「ギターを持っていきたい。そこの遊具の影にあるから。」
少し驚いたような顔をする男。手を離して、彼が遊具の下へ歩く。
彼に連れられ到着したのは、小さな喫茶店だった。2つのテーブルと後は、カウンター席。彼は、店主だと言う。落ち着いた内装の店だ。統一感のある調度品と、控えめな照明。
「……他に従業員は居ないのか?」
「いないよ。君が従業員第一号だからね。」
「……はぁ!?ふざけんなよ。いきなり出来るわけないだろ」
「まぁまぁ。ゆっくり覚えればいいんだよ。」
どこまでもマイペースな彼に、無性にイラつく。とはいえ立場的に、あまり逆らえないのだが。
「あぁそうだ。僕の名前は国東だよ。」
「……変な名前だな。フランスの詩人みたいだ。」
「……零だ。これからよろしく頼むよ。」
新しい生活はどうなるか、分からない。それでも、なんとかなるのかと思うのでした。勿論、ギターも弾くよ。
追記:雨に濡れたままだったので、風邪を引きました。くちゅん。
雨中の鼠 ミント @kannzakiAoi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。雨中の鼠の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます