手紙

 あいつが死んでから、初めはみんな喪に服すように静かだった。だけど、二、三週間経つと、だんだん前のような賑やかさが戻ってくる。

 野木以外は。

 野木は、みんなの分の悲しみを一人で抱えているかのように静かだった。元気な奴のはずなのに。人の死は、こんなにも誰かの性格や、これからの人生を変えてしまうものなのだろうか。

 あいつが死んで、俺も変わったのかもしれない。というのも、深津に言われたのだ。 「強くなったよね」と。

どういうことなのかあまり分からないが、考えてみると確かにこの頃男子とふざけているとき、やられ役をすることがなくなった。深津の方は、暴力ではなく言葉の破壊力の方が強いので、相変わらず暴力の対象にされているが。だがそれも、前のようにたたいたり蹴ったりではなく、言葉の暴力になっていた。



――あいつの死で、俺はどうなったんだろう。


――なんで、告白されたとき、あんなにも冷たいことを言ったのだろう。


 そんなことを、考えるようになっていた。



 ある日。朝から眠気がひどくてあくびをしていた時。

 野木から、一通の手紙を受けとった。宛先には、丸まった字で『河森葉弥へ』と書いてあった。字の特徴から、あいつからの手紙だと分かった。

 野木は、俺の顔を見ると、きっと困惑した顔をしていたのだろう、説明をしてくれた。

聞いた話を簡単に言えば、死ぬことが頭のどこかで分かっていたあいつは、何か伝えたいことがある人に手紙を残した、ということらしい。


――なんで、俺に。もう、話していなかったのに。


 約束してほしいことがある、と野木は言った。


「ここに書いてあるのは、由乃が本当に河森に伝えたかったことだから。真剣に読んで。それが、由乃の最後のお願い」


 じゃあ、よろしくね。

 そう言って野木は自分の席に戻った。

 俺は、まだ動いていない頭をフル回転させ、事態を把握する。そして、半ば強引に渡された手紙を見た。


――読みたくない。


 そう思った。しかし、野木の言葉を思い出す。

“真剣に読んで。それが、由乃の最後のお願い”。

 そう言われたら、読むしかなくなる。

 俺は、朝のあいさつの後すぐ席に座り、先生に見つからないように手紙を開けた。


 手紙を開けたとき、俺は何を思ったのだろう。緊張か、不安か、それとも喜びか。分からない。でも、俺はきっと、哀しかったのだろう。

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