そして
会議が終わってから、学級文庫を各クラスごとに選び教室に持っていくのだが、既に恒例行事のように俺が真面目に本を選ばなかったので、俺とあいつが図書室を出るのがいつものように一番遅かった。唯一いつもと違ったのが、本を置きに教室に入ったとき、深津がいたことだ。
深津は学年委員をやっている。確か、学年委員はこの教室、1年3組の隣にある学年室でいつもやっているはずだ。たぶん、鞄を教室に置いていて取りに戻ってきたのだろう。
三人で雑談をしていると、深津が忘れ物を取りに学年室に行った。その時、不意にあいつが言った。
声が震えていたのが印象的に残っている。
「葉弥、うちの好きな人の話、覚えてる?」
なぜ、いきなりこの話を言いだしたのかは分からなかった。いや、本当は少し分かっていた、のかもしれない。
軽く、頷く。
それを見て少しホッとしたのか、先ほどよりあまり緊張していない口調で、あいつは言った。
「終業式の時に言った、あのイニシャルの人物はね」
聞いちゃいけないような気がした。でも、いつの間にか今隣にいるあいつの声を、待っている自分がいた。
「―――葉弥なんだよ」
固まった。それは、つまり俺のことが――?
「嘘だろ」
言葉を発しているのが自分だということが信じられなかった。あまりにも無機質で、冷たく突き放すような言葉だった。
「嘘なわけない」
お願いだから、信じてよ。そんな声が聞こえてきそうだった。
あいつは、どんな顔をしていたのだろうか。見なくてはいけないと思っているのに、横を向くことができなかった。
きっと、哀しい顔をしているから。
深津が教室に戻ってきたとき、俺は安心した。もう少しで教室から出ていっていたかもしれない。
この雰囲気が耐えられなかった。
「そろそろ帰ろ。締め出されちゃう」
あいつがそう言ったとき、よく感情を隠せるな、と素直に感心した。俺は早く帰りたかったので、女子二人を教室に置いて先に出た。後ろから、「由乃ちゃん、聞きたいことがあるんだけど」という深津の声が聞こえた。
後日、あいつに「委員会の時の話の続きだけど、ふるんだったら、ふってよね」と言われた。それに俺は「は?知らねーし」と答えた。
冷たいということは十分承知だ。でも、あの後からずっとあいつのことばかり考えてしまって、もやもやしていた。冷たい返事をしても、気持ちは全然すっきりしない。
その代わり、というわけじゃあないけど、俺は
なぜだか、こいつには言って大丈夫だと思ったから。
告白をされても、関係が変わらない方が良いに決まっている。でも、ダメだった。変わってしまった。良い方に、ではなく悪い方に。
あいつはよくいたずらをした。でも、勝手にシャーペンを取っても一日以内には返ってくるし、三本ぐらいペンを壊されたが本当に申し訳なさそうに謝ってきた。
言い争ってどっちも機嫌が悪くなった次の日には、俺の机に「ごめん」と置き書きしてあったときもあった。
しかし、告白されてから、俺の中で何かが変わった。あいつのしてくるいたずらが面倒くさくなったのだ。
あいつはあいつで、俺への対応の仕方に困っているようだった。
俺とあいつはふたりとも、告白前どうしていたのかが分からなくなっていた。
距離感が掴めない。接し方が分からない。
だから、こうなるのは必然だったのかもしれない。
俺とあいつは話さなくなった。
前とは違う。どちらとも、話そうとしないのだから。
そして、あいつとは二度と、永遠に話せなくなってしまった。
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