すれ違い
H.Kが誰なのか気にしていたが、徐々に気にしなくなっていった。
ちなみに、深津は相変わらず俺を暴力の対象にしていた。しかも、前にも増してやたらと話しかけてきたり、叩いてくるようになった。でも、おかげさまで深津とは少し仲が良くなったような気がする。初めにも言ったが、話すのなら深津の方が良いのだ。
新学期が始まって、あいつは俺を避けているのかのように、話しかけなくなった。
俺は、自分から話しかけることがほぼないに等しい。本当に仲の良い奴にしか、自分から話しかけない。あいつとは、本当に仲が良いという関係ではない。たまたま隣の席になって、たまたま同じ委員会になっただけだ。
しかし、俺がいつもと変わらない対応をしているからか、あいつはまた俺に話しかけるようになった。
話しかけられるのなら、普通に応える。
そんな感じだったからだろうか、ある日、終業式のイニシャルを覚えているか、と尋ねてきた。俺は、なんとなくその話をしたくなくて黙っていたのだが、あいつが返事を待っている気配がしたので「そこまで記憶力がないわけじゃない」と答えた。すると、やはり「じゃあ、それが誰なのか分かった?」と言った。俺は自分でもよく分からないけど、その質問を無視し、近くの男子の方に行った。あいつが後ろで待ってよ、と言ったのが聞こえたが、それも無視した。
それから何週間かの間、俺はあいつを避け続けた。俺に話しかけようとこっちへ来るのから、なるべく離れたくて遠くに行った。
今あいつと話したら、聞きたくないことを聞いてしまうような気がした。
それでもあいつは俺に話しかけに来る。避けても、追いかけてくる。
――なんで、ここまでするんだ。
苛立ちのようなものを感じていた。諦めろよ。そう思った。
でも、最終的に折れたのは俺だった。
避けるのが馬鹿馬鹿しくなったのだ。
もう、なんでも言えばいいだろ、と思い始めていた。何を言われるのか想像もつかなかったけど、なんでもかかってこい、と意気込んでさえいた。
なのに。
まるで、そんな話を始めからしていなかったかのように、あいつは、その話を出さなかった。
はっきり言って、拍子抜けした。せっかく、聞こうと思ったのに。でも、いつも通りのあいつの様子を見て、安心した。きっと、気にしていないのだろう。そう考えることにした。
でも、心のどこかで分かっていたのだ。傷ついていないわけがないと。そして、あいつがその話をしなくなったのは、間違いなく俺のせいだということを。
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