“当たり前じゃん!私だって、由乃がいたらずっと笑っていられるよ。ずっと、一緒なんだから”


 毎晩、寝ようとすると、昔の自分の言葉が聞こえくる。もう、この言葉を言う相手はいないのに。


――由乃、由乃がいないから、あたし、笑えない。由乃、ずっと一緒じゃなかったの?


 目をつぶった。現実に起こっている全てのことを、見なかったことにしたかった。深い闇の中に、意識が落ちていく――。



「尹ー夜!まだ寝てるの?病院しまっちゃうよ」


 その声に驚いて起き上がると、目の前に満面の笑みを湛えた由乃がいた。

慌てて周りを見渡して、自分が由乃の病室の中にいることが分かる。さっきまで自分の部屋にいた気がするが、たぶん、気のせいだろう。


――やっぱり、夢だったんだ。由乃が死ぬなんて、ありえない。


「大丈夫?起きてますかー」


 考え込むようにしているあたしを見て、由乃が、不思議そうに首を傾げる。それが何だかおかしくて、笑った。


「大丈夫。なんか、変な夢見ちゃって」


 どんな夢なの?と聞かれたが、由乃が死んだ夢を見た、なんていう縁起の悪いことは、口が滑っても言えない。適当に誤魔化して、話を終わらせる。

 妙にリアルな夢だったな、と思った。それに、こんなに記憶が残る夢も珍しい。

 ふと、本当にこれは夢なのか、と思った。

 不安になる。

 今、由乃に触れたら、幻想のようにすり抜けてしまうのではないか。こっちが夢で、夢が現実なんじゃないか。そんなことを考えてしまった。

布団の上にのっている、由乃の手にそっと触れた。少し冷えた手だった。でも、すり抜けるようなことはなかった。


――良かった。幻想じゃない。


「急にどうしたの、手なんか触って」


 探るような目つきで、由乃が尋ねてくる。


「いや、なんでも……」


 どう言えばいいのか分からず、言葉を濁すあたしを見て、由乃が、優しく笑う。


「なに考えてるのか分かんないけど、ほら、うちはここにいるよ」


 そう言って、由乃は優しくあたしの手を包む。


――なんでもお見通しだな。


 あたしの手を包むその手は、やっぱり冷えていたけど、あたしの心は温まった。


「そうだよね、由乃。由乃は、ここにいるよね」



 目が覚める。窓から、刺すような眩しい陽射しが入り込んでいる。

 確認しなくても分かっている。ここは自分の部屋で、由乃はいない。いくら幻想に触れることができても、それが現実になることはない。

 あたしは、布団を自分の方に引き寄せ、丸くなった。

 目をつぶれば、由乃がいる。いつでも笑って、そこにいてくれる。


――目を開けたときには?


 涙が、こぼれた。

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