笑顔

 あたしは、由乃の笑った顔が好きだった。ヒマワリのようにひたむきで、周りを照らしてくれるような由乃の笑った顔が、大好きだった。


「尹夜、うちね、尹夜がいたら、毎日笑うよ。尹夜がいるだけで、楽しいから。だから、ずっと親友でいようね」


いつだったか、あたしが、由乃にずっと二人で笑っていようね、と言ったとき、由乃がいった言葉だった。そのときは、くすぐったくて、答えることができなかった。でも、言いたかった。


 「当たり前じゃん!あたしだって、由乃がいたらずっと笑っていられるよ。ずっと、一緒なんだから」


そう言いたかった。



 お通夜の日。棺の中で寝ている由乃の顔は、穏やかだった。参列者たちは、口々に「幸せだったから、死に顔が穏やかなのよ」「きっと、苦しくなかったのね」と言った。

 違う。

 苦しくなかった訳ない。

 それに、穏やかな顔じゃなくて、あたしは、あたしは……。



 笑った顔を、見たかった。



 最後に、もう一度だけ由乃の笑った顔を見たかった。

 ―――ねえ由乃、もう一度だけ、笑ってよ。

そんな願いが叶わないことなんて、分かっていた。

 分かっていたけど、願わずにはいられなかった。



 あたしは、それから一週間学校を休んだ。周りの人は、理由を聞かなかった。分かりきっているからだ。その通り、あたしは親友の死を整理しきれず、自分の部屋に閉じこもっていた。

 ようやく学校に行く気力が出て、学校に行っても、クラスの人はまるで腫れ物に触るように、あたしに接した。先生は、「あなたが、古湖さんととても仲が良かったのは知っています。でも、古湖さんのことは少しずつ忘れましょう。そして、新しい友だちを作りましょう」と言った。


――分かってない。誰も、分かってくれない。


どうしようもない居心地の悪さと、倦怠感があたしに付き纏うようになり、人と話すことが面倒だと感じるようになった。そして、次第に私は笑わなくなった。また、それを見計らったように、クラスの人も離れていった。

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