どうして…?

 あたしに、由乃の両親から、『由乃が危篤状態にある』と連絡が来て、急いで病院に行ったときには、既にこうなっていた。


 間に合わなかった。

 親友が、息を引き取ったという時に。


「ヘルパンギーナという病気を知っていますか。夏に流行るウイルス性の感染病で、突然高熱を出し、喉などに炎症が起こる病気です。今回、古湖由乃さんは体力が元から多くないのに加え、突然の高熱に身体が驚き、本来なら六才未満の子どもがなる熱性痙攣を起こしました。また、立て続けに心筋炎になり、ここで由乃さんの身体が耐えきれなくなりました。私たちも最善を尽くしましたが、今日17時38分、心不全に陥り劇症急性心筋炎げきしょうきゅうせいしんきんえんでお亡くなりになりました」


 医師が、淡々と死因を伝える。分からない言葉が多かった。でも、例え今、医師が言っていることが分かっても、由乃が生き返るわけではない。分かっても、意味がない。


 あたしの横で、由乃の母親が泣き崩れるのが見えた。嗚咽混じりの泣き声も聞こえてきた。でも、その声を出しているのは横にいる由乃の両親ではなく自分だということに気づくのに、少し時間がかかった。そう、あたしは病院中に響き渡るような声で、泣いていた。


 今自分の前で寝ている由乃は、今すぐにでも起きて、「なに泣いてるの?ほら、遊ぼう」と言いだしそうだった。


「起きてよ。起きてよ、由乃!」


あたしは、由乃の亡骸を激しく揺さぶった。医師が隣で何か言っていたが、そんなもの、聞こえなかった。


「起きて、起きて……」


あたしが何回呼んでも、由乃はもう目を覚まさなかった。



暗闇の中に放り込まれたような感覚になった。

絶望と、悲哀とがおり混ざり、心の中にぽっかりと穴が空いたようだった。

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