光の方へ

異空 世之

その後

1人目 野木 伊夜の場合

親友

 あっけなかった。

 あっという間だった。

 微かに燃えていたロウソクの炎は、誰かの吐息と共に消えてしまった。

 手を握って一緒に歩いていたはずなのに、いつの間にか隣には誰もいなくて、そのほのかな手のぬくもりさえも、消えていた。



 あたしの親友、古湖ふるこ由乃ゆのの死は、そんなだった。



 由乃は、昔から病弱で、他の人ならすぐに治るような風邪もいつもひどくなって、何回も入退院を繰り返していた。そのくせ、いつも明るくて優しくて、自分のことより他の人のことを優先していた。体力がなくて心臓が弱いのに、どうしてもみんなと遊びたいと言うから、親に内緒で走って、病院に運び込まれたときも、「尹夜いよは悪くない。うちのわがまま聞いてくれて、ありがとう」と、あたしのことを責めることはなかった。

 


 ずっと親友でいたいと思ってた。

 けれど、だめだった。



 既に毎月恒例となっていた由乃の入院は、今回も風邪によるものだった。

 蝉の声も消え始め、静かな秋が近づいてきていた頃だった。


 つい一週間前にも風邪で入院していた由乃は、あたしがお見舞いに行くと、少し疲れているようだった。「また風邪引いちゃった」と笑う彼女は、心配をかけないように、わざと明るく言っているようにも聞こえる。


「元気出しなって。ほら、これ今日の分のノート」


 月に最低一回は入院をする由乃は、もちろんのこと、学校の授業があまり受けられていない。体育にだって出られないし、友だちとはしゃぎすぎてしまってもアウトだ。でも、クラスの人もそのことに慣れてきたのか、特別遠慮するということも減ってきて、普通の友だちとして接せられている。遠慮されることを嫌う由乃は、みんなのそんな対応が嬉しいようだった。


「いつもありがとー!本当に助かる。持つべきものは親友だね」


 そんなことを言いながら、二人で笑い合う。一番幸せな時間だ。いつまでもこの時間が続いて欲しいと、思った。なのに……。


「非常に、残念です」


 この台詞をいうのに、もう慣れてしまったかのような無機質な医師の声が、頭の中で木霊した。

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