第29話 その後の2人 結婚記念日 ⁂

「ナナさん、誕生日おめでとう」

「ん。ありがとう」

「プレゼントは要らないって言ってたから、コレ」


 小さめの包みを渡される。

 ハンカチか?

 それにしては大きい。

 ネクタイ?

 にしては小さい。

「なのになんで用意してるんだよ」

「それは、ナナさんっていうより、僕の為のものだから」

「?」


 包みを解いてみると、出てきたのは、赤い花柄のTバック。

 某有名女性下着メーカーのものだ。

「このメーカーって、女性の有名な下着メーカーじゃないのか? 」

「うん。CMとかよく見るよね? でも、僕も知らなかったけど、男性用の下着も作ってるんだ。それは、フローラってシリーズ。花柄だけどカッコイイでしょ? 」

「そうだけど。メッシュだろ? 」

「うん。 セクシーでしょ? 」

「…… 。今日はもうシャワーしちゃったけどな。コレ、着けて欲しいのか? 」

「いや。 明日で大丈夫」

「大丈夫って…… 」


 明日も、するつもりでいるのか?

 体力的に俺が大丈夫じゃない、かも?

 アキが、俺を引き寄せ、顔を近づけて来る。

「ちょっと待って。 せっかくだし、コレ着けてくるから」

 やっぱり、今日のウチに済ませてしまった方が良いんじゃないか?

 多分、コレを脱がせたいんだろ?


「今日はいいよ。すぐに脱がせちゃうんだし。着けてるところを想像するのがそそるんだよ。 だから、明日着けて。ね? 」

 そういう事か。

 それなら、明日付き合ってやるか。

「分かった。明日にする」

「うん! ありがとう」

 満面の笑みだ。

 そんなに嬉しい事か?


 今度こそ、アキの唇に捕まった。

 あむあむと、オレの唇を食んでくる。

 風呂上がりのアキは、肩にかかるくらいの緩いウェーブのハニーブロンドを無造作に下ろしていて、最高に色っぽい。

 少し濡れた髪が頬を掠め、そのくすぐったさに、背中がピクッとなる。

 キスをしながら、見つめて来る瞳は熱い欲情を孕んでいて、長い睫毛が微かに揺れる。

 あぁ、今日もこの瞳に簡単に絡め取られてしまった。


 バスローブしか身に付けていない俺たちは、簡単に生まれたままの姿になる。

 月明りに照らされる、割れた腹筋。

 相変わらず美しい。

「ナナさん。綺麗。瑞々しい白桃みたい」

 鎖骨の辺りに、愛の印を付けられる。

 アキの大きな手が胸の飾りを摘み、蠢く舌は、味わうように、脇腹に下りていく。

「…… ん。…… あっ 」

「すっかり、乳首で感じるようになっちゃったね。可愛い」


 恥ずかしいのに、漏れる吐息が甘く湿ってしまう。

 柔らかなハニーブロンドに指を絡める。

 一瞬、目が合い、ニヤッと微笑まれる。

 余裕の顔が憎らしい。

 舌は更に下りて行き、緩く反応しているソコの先をペロリと舐めた。

「…… ぁはっ 」

 根元から先まで、裏をゆっくり舌が履い、完全に立ち上がる。

 先から一気に口腔に含まれ、いきなりの強い刺激に、肌が泡立つ。


 内腿を撫でながら、施される口淫にすっかり腰砕けだ。

「あっ…… あぁ、気持ちいい。アキ、ダメ。今日は、まだ、イキたくない」

 口の中から解放された俺自身は、余韻に甘く揺れている。

 今度は、俺のリターンだ。

 アキの肩を軽く押し、ベットに寝かせる。

 甘いキスが欲しい。

 アキの唇にかぶりつく。

 何度も角度を変え交わる口付けは、深く浅くを繰り返し、お互いを求める舌の攻防も、ピチャピチャと漏れる水音も、官能を掻き立てるスパイスにしかなり得ない。


 一度唇を離し、俺の鎖骨と同じ場所に、お返しの赤い花びらを残しておく。


「アキ、完璧だ。 美しいよ」


 繋がったまま、アキの腹の上に寝そべり筋肉を堪能した。

 あったかい。

 心も身体も癒される。

 アキは、俺の髪を梳くように髪をなでる。

 気持ち良い。

「ずっとこのままいたいな」

「だね。 …… でも、ムリ 」

 繋がったまま、身体を入れ替えられる。

 背中に回した指先で、背筋の凹凸を感じ取る。

 優しいストロークが始まり、俺は目を閉じた。



 翌朝、眼が覚めると、俺を幸せそうに見つめるアキと目が合った。

「おはよう。ナナさん」

「ん。おはよ」

「ねぇ。ナナさん、この前旬が言ってたんだけど、朝のセックスって、最高に気持ち良いらしいよ」

「は? 」

「僕たちも試してみない? 」

「いつも、旬とそんな話してんのか? 」

「いつもじゃないよ。たまたま。森國社長と上手く行ってるか聞いたんだけど、そしたら、勝手に旬が惚気てきたの」

「じゃあ、明日のサプライズパーティーは問題無いかな? 」

「だね。 それより、ねぇ、ダメ? 」

「こんな朝から? 」

「特別な日だから」

「んー…… 」

「最高に幸せな気分になれるって」

「最高に? 」

「うん。だから、ねっ? 」

「……うん」

「やた!」


 昨夜、シャワーの後につけたばかりのおろし立てのTバックが脱がされる。

 結局、直ぐに脱ぐんじゃないか。

 そんな事を考えつつも、嬉しそうなアキを見て、頬が緩む。

 たまにはこんな日も悪くない。

 今日からまた、1年が始まる。

 穏やかで、温かい、1年になりますように。

 そう願いながら、アキの唇を受け入れた。



 了

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