第27話 誓い

 暫くして、全ての招待客が集まり、思いおもいの場所に座った頃、照明が控えめに落とされた。

「皆さん。お忙しい中お集まり頂き、誠に有難う御座います。この度は、このamenoアメーノの東京進出と言う事で、、、 」


 アキから挨拶が始まった。

 店のコンセプトや、どんな空間を目指して行きたいか、沢山の人達の協力への感謝などが述べられ、

「それでは、amenoアメーノの成功と更なる発展、そして、ここにいらっしゃる皆様方のご健勝をお祈りいたしまして乾杯を行いたいと思います」


 日向さんが、みんなにシャンパングラスを配ってくれる。

「カンパーイ!」

 照明が明るくなり、ジャズが心地よいリズムを刻む。

 次々と料理が運ばれて来て、その美しさと美味しさに、皆、目を輝かせていた。

 あちこちで、楽しげな笑い声が聞こえてくる。

 何処を見てもみんな幸せそうな笑顔だ。

 良かった。

 本当に良かった。


 なんだか急に、この輝かしい場に、自分が不釣合いに感じて、アキを目で探す。

 後で、片付けには来るからと、一言伝えて部屋へ帰ろうと思ったのだ。

 その空気を察したのか、樹が近寄って来て、耳元で囁いた。

「春日。まだ、帰っちゃダメだ。これから重要な役目が待ってるよ」

「は?何言って…… 」


 こちらに向かって、アキが歩いてくる。

 いつものギャルソンエプロンをしていない。

 それどころか、スーツを着ている。

 そんなんじゃ、料理がしにくくないか?と思っていたら、突然俺の前で跪いた。

 と、立ち竦んでいると、左手を取り手の甲にキスをした。

「ナナさん、僕と結婚してくれる?」

「えぇーっ⁈」

「はい!って言って」

「は、い?」

 気がつくと、みんなこちらに注目している。

 ナニ?どういう事だ?

 驚いていると、今度は、樹がみんなに向かって話し始める。


「これより、この2人、七尾 春日ななお はるひ雨野 秋成あめの あきなりの結婚式を執り行います」

 いつのまにか、後ろに、史花さんが居て、俺とアキの胸に、小さな花束を刺してくれた。

「ご存知の方もいらっしゃるとおもいますが、この2人は前の街で、パートナーシップの宣誓をしておりました。しかし、それは各自治体によるもので、その効力は他には及びません。そして、残念な事に、ここの自治体にはその制度そのものが無いのです。日本でも、同性婚の可否は問われていますが、実現まではまだ遠いようです。 それまでの間、ここにいる皆んなで、2人を祝福し、応援しようではありませんか。この2人の愛を、神でも市長でも無く、ここにいる皆んなに宣誓してもらいましょう!」


 樹は、俺たちに振り返った。

「では、春日、アキ。 君達は、お互いを人生のパートナーとして尊重し合い、これからの人生を助け合って行きていく事を、ここにいる皆さんに誓いますか?」

「「はい。誓います」」

 あたりは、盛大な拍手に包まれた。

「では、指輪の授与です。 史花。」

 史花さんが、リングピローを持ってきた。

 驚き過ぎて、言葉が出ない。

「この指輪は、ここにいる皆様からのプレゼントです。 ですから、指輪の交換では無く、授与です。 因みに、このリングピローは、シンガポールにいる雨野さんのお祖母様が作って下さいました。 …… 春日、アキ、おめでとう。 さ、お互いにはめてみて」

 薬指に、銀色が輝く。

「うわぁ。ぴったりだね。ナナさん!」

「あぁ」

 言葉の出ない俺の代わりに、アキが皆んなに向かってお礼を言う。

「皆んな、有難う!スゴく嬉しいです‼︎

 そして、本日最後のサプライズ! 今日はナナさんの誕生日です! …… みんな、用意は良い? ナナさん、誕生日おめでとう‼︎‼︎」


 パン!パン!パン!


 一斉にクラッカーの音がした。

 辺りが火薬の匂いにまみれる。

 途端に、喉の奥が苦しくなり視界が歪む。

 こんな時に泣きたく無いのに……

「ナナさん…… 」

 アキが肩を抱き寄せ、顔を覗き込んでくる。

「バカ。 コレは、クラッカーが目に沁みたんだ! 」

「ふふっ。クラッカーは沁みないよね? 」


 スタンディングオベーションの中、触れるだけの優しい優しいキスをした。



〈了〉




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