第20話 記念日 ⁂

 今日は、僕らの結婚記念日だ。

 午前中に、市役所で、宣誓書にサインをした。

 ナナさんを生涯の伴侶として、幸せにすると誓った。


 帰ってくると、お祝いにアップルパイが届いた。

 以前行ったMELOメーロからのものだ。

 ナナさんは、MELOの大家さんだった。

 それにも驚いたが、実はそのビル一棟の持ち主だと聞いて、更に驚いた。


 ここのアップルパイは絶品で、前から店に出したいと思っていた。

 蓮見さんご夫婦が引退されると聞いて、その想いは一層強くなった。

 店と共に無くなってしまうのは勿体ない。

 早速、レシピを継承したい旨を手紙に書く事にした。


 それにしても、ナナさんのスーツ姿は、実に良い。

 開業してからは、以前ほど着なくなったのだが、スーツの時は妙にソワソワしてしまう。

 スーツの下は、Tバックを着けている事を知ってるからだ。

 浮つく気持ちを抑えながら、真剣に手紙を書いた。


 書き終えて、ふと顔を上げると、ナナさんの熱い眼差しとぶつかった。

 あー。理性を守る兵隊さんを総動員させていたのに、ナナさんの熱い視線に、みんな呆気なく降参をしてしまう。

 でも、しょうがない。

 コレに反応しない男は男じゃない。


「ナナさん、色っぽい顔してる」

 ナナさんを隣に呼んで、キスをした。

 甘い、甘い、キス。

 とてもじゃないが、これだけじゃ終われない。

 普段なら、「こんな時間に」とかなんとか言われそうだが、今日は特別!

 気にしない。

 ナナさんに準備を促したが、出来てると言うしゃないか!

 ナナさんも期待してた?

 途端に、エロモードのスイッチが入った。

 シャツの釦を外し、剥ぎ取るように脱がす。

 スラックスも抜き去った。

 いよいよだ。

 Tバックに指をかける。

 ここはゆっくりと引き下げる。

 ナナさんのモノが反応している。

 僕に欲情してくれているのが嬉しくて、更にキスを深くする。

 服を脱ぐ少しの間も、離れがたくて、口唇の繋がりを解けない。

 この肌理の細かいすべらかな肌を堪能できるのは、僕だけだ。

 この癖のない艶やかなサラサラの髪も、白桃のような肌に色を刺す、薄桃色の胸の尖りも、そして、華奢な割に男らしく美しい屹立も。

 全部、全部、僕だけのモノだ。

 僕の全部をあげるから、ナナさんの全部を僕にちょうだい。


 想いを込めて、身体中を愛撫する。

 優しく、僕の気持ちが伝わるように……

 止め処なく好きが溢れる。

 好きで、好きで、堪らない。

「好き」、「愛してる」、じゃ足りない。

 好き過ぎて胸が切ない。

 好きで、大切過ぎて、誰にも見つからないように仕舞っておきたい。

「愛してる」以上のこの感情を表す言葉はないものか。

 この言い表せない温かい気持ちが、伝わるといい。

 ナナさんが、心地よくて、僕から離れない様に。

 僕なしでは、生きられないように。


 今日は、2人の間を邪魔するものは何も要らない。

 薄皮一枚でも、入り込んで欲しくない。

 人口的な、潤いでさえも。

 

 

 肩に掛けた、カモシカの足がピクンと跳ねる。

 全ての一挙手一投足が愛おしい。


 腰を強く打ち付けると、ナナさんの嬌声がまだ明るいリビングに響く。


「…… ナナさん。…… 好きだ」


 息の整わないナナさんを胸に掻き抱く。

 僕は、今、最高に幸せだ。






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