第17話 飛翔 ⁂

 水曜日の夜、宣言通り、樹は〔ameno〕に現れた。

 その日も、気持ちは変わらない事をしっかり伝えた。

 樹は、納得とは行かないまでも、幸せを祈ってると言ってくれた。

 存外、悪い人間ではないのだ。


 一緒に過ごした時間は、楽しかったし、感謝してる事を伝えて帰した。

 俺と樹の間には、友情が残った。

 樹を店先まで送りがてら、近所のデパートに行く。


 アキの好きな、スモークサーモンとアボカドのサラダと、美味そうなチーズ、地元産の生ワインを購入した。

 今日のワインは、白。

 チルドルームでキンキンに冷やそう。

 樹には申し訳ないが、今日は、アキと俺の門出の日になるだろう。

 期待しているようで、面映いが、先にシャワーを浴びて準備をしておく。


 店が終わり、アキが帰ってくる。

 今日は、何やら、ブランド店の紙袋を下げている。

 また、試しに新しい食器でも買ったのかもしれない。

「おかえり。アキ。今日もおつかれ」

「ただいま。ナナさん。話、上手く出来たみたいだね。ありがとう」

「ん」

 少し顎を上げると、ゆっくりアキの口唇が降りてくる。


 見つめ合いながら、想いを確かめ合うような、優しいキスを繰り返す。

 息が上がり、漏れる吐息まで、食べられそうだ。

 身体に熱がこもり、絡みあいながら、どちらとも言わず、バスルームへ向かう。

 アキが、準備を手伝ってくれる。

 とてつもなく恥ずかしいが、コレも愛の儀式の1つだと思う事にした。


「あれ? 柔らかい。ナナさん、準備した?」

「言うなよ」

「嬉しい。ベットまで待てない」

 深く口付けられ、くぐもった声が漏れる。

「ダメ。 ……ベットまで ……行こう」

 鼻をスリスリして、ニッコリ微笑むと、ベットルームまで横抱きにされた。

「ナナさん、軽っ。 女の子見たい」

 こんな時に、他の女と比べられたくない。


 首に掴まっていた俺は、首筋を噛んでおく。

「誰を想像したんだ?」

「?? 想像なんてしてないよ。あくまでも、一般論」

 それもなんだか面白くなくて、一応、キッと睨んでおく。

「かーわいー。 僕の頭の中見てみる? ナナさんで一杯だから! 」

 優しく、ベットに降ろされ、額にキスが落とされる。


 月明かりがほんのりと、辺りを照らす中、愛の儀式は始まった。

「ナナさん。 綺麗。 やっぱり、僕の天使だ」

「天使って…… 」

「言わなかった? 初めて見たとき、漆黒の天使だと思った。 輝いて見えて、目が離せなかった。それから、ずっと、今も、惹かれ続けてる」

 身体中に、甘い花弁を咲かせながら、そんな事を呟く。

「俺もアキのこと、モデルの様な男だとおもったよ。釘付けになったのは俺も同じ」

 アキに、翻弄されつつも、負けじと俺も応戦する。

「指、入れていい?」

 ローションを、手のひらで温めながら聞いてくる。

「聞くなよ」

「痛かったら、直ぐに言って」

 ゆっくり、ゆっくり、押し入ってくる。

 これから来るモノの、道筋を確かめる様に。

「ふぅっ…… 」

 痛くはないが、腹が苦しいのと、じわじわと登ってくる快感に思わず声が漏れる。

「増やすね」

 襞を分けるように、ほぐすように、増やされる。


 良いポイントを押された途端、強すぎる快感に背中が弓形に反り返り、意図せず胸を突き出してしまう。

「可愛い。ココも」

 胸の突起を嬲られ、声が漏れる。

 力を持った屹立は、いまか、いまか、と待てない涙を零し始める。

 いつの間にか、指は3本に増やされ、抜き差しされていた。

 指が一気に抜かれ、背中に戦慄が走る。

 

 これから襲いくるであろう未知の感覚に期待し、俺自身を更に昂らせる。

「いい? いくよ? 」

「ん。 来て」

 

 汗に濡れて張り付いた髪を大きな手で搔き上げる。

 俺は、この仕草が色っぽくて好きだ。

 



「…… やっと、ひとつになれた」

 アキの瞳が揺らいで見えるのは、何も自分が泣いているせいだけではないだろう。

 俺の頬に、ポツッと雫が落ちてきた。

「ナナさん。…… 好き。 …… 大好き」

 こめかみにキスが落とされる。

「俺も。 …… 好きだ。 …… アキ」

 ゆっくりとストロークが開始される。


 チュッとキスをされ、動きが加速された。

 もう、気持ち良すぎて何がなんだか分からない。

直ぐに、欲望は吐き出された。


 背中支えられ、抱き起こされる。

 膝の上に座らせられ、強く抱きしめられる。

 愛おしさに、アキの頭を掻き抱いた。

 アキは俺の首筋に鼻を埋め匂いを嗅ぐ。

「はぁ。いい匂い。落ち着く」

 柔らな、ハニーブロンドを、指に絡めて弄ぶ。

「アキ。 気持ちよかった。もう、俺はお前のモノだよ」

 はっ、と、顔を上げるアキ。

「違うよ。ナナさん。僕が、ナナさんのモノ、なの!」

「そうか?」

「そうだよ! 使用後の返品は受け付けないからね!」

「返品なんかしないよ。 …… 大事にする」

「ナナさん…… 」


 それから俺たちは、また、深く激しく愛し合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る