第13話 ジェラシー

 アキの態度は変わらない。

 でも、きっと不安に思ってる。

 先に、ちゃんと話そうと思ってたのに、予定が狂ってしまった。

 樹が余計な事を言ってなければいいが……


 つらつらと考えつつ、アキの背中見ながら階段を上った。

 玄関のドアを閉めた途端、肩を掴まれ、背中が壁に押し付けられた。

 驚き顔を上げると、鋭い視線で見つめられ、いきなり噛み付くようなキスが降り、尻たぶを掴まれる。


 普段とはまるで違うアキが、恐ろしい。

 落ち着かせようと、腕を突っ張ってみるがビクともせず、一瞬怯んだ様に離れた唇は、再び獰猛に追いかけてきた。


 どちらとも知れない唾液が溢れて、息をするのも苦しい……

 怖がってるのは、アキの方だ。

 安心させるように身体の力を抜き、首筋に緩く腕を絡ませた。

 柔らかいくせ毛に触りたくて、ハーフアップに結われてる髪を解いた。

 ハニーブロンドの髪が流れて、一層色気を増す。


 唇が離れ、苦しげな顔で見つめられる。

「今夜は、ナナさんを貰う」

 跡が残るほど強く腕を掴まれ、ベットルームまで引かれた。

 乱暴にベットに投げられる。

 見上げると、今にも泣きそうに歪んだ顔。

 瞳の中に劣情が見えた。


 好きにさせてやろうと思った。

 アキがそれで安心するなら、後悔は無い。

 突然の樹の出現が、アキを混乱させてるのは明らかだ。

 俺には、アキだけだ。

 この想いが伝わるようにと、優しく微笑んだ。

「…… 好きだよ。アキ。…… 愛してる」

「ナナさん! 好きだ。 何処へも行かないで……誰にも渡したくない! 僕を…… 受け止めて……」

 シャツの釦を外しながら、首筋を噛まれる。

 はだけた胸を撫で回し、俺の名を呼びながら、肌に印を付けていく。

「アキ。こんな時に聞きたく無いと思うけど、、、樹とは、何も無いんだ。キスすらしてない。……お前が初めての男だよ」


 アキが顔を上げ、眼を見開いて固まった、と思ったら、ドサッと俺の上に落ちて来た。

「ごめん」

 首筋に顔を埋め呟く。

「謝らなくていい。俺もアキを受け入れたい」


 突然、アキは、振り切るように飛び起きて、俺に背を向けベットサイドに座り、頭を抱えた。

「違う。こんなんじゃダメだ」

「どうした?」

「僕、焦ってた。さっきのヤツにナナさんを取られるんじゃないかって…… 」

「無いよ」

「うん。ありがとう。ごめん。どうかしてた」

「そんな事…… 」


 アキの肩に腕を回し、抱き寄せる。

「無くないよ。…… あのさ、聞いて。 セックスってさ、カラダで語り合う事だと思うんだ。

 肌と肌が触れ合って、好きだよ…… 愛してるよ…… って。 相手を慈しむ事で、、、こんな風に一方的にぶつけるのは違う。 こんなつもりじゃなかった。優しくしたかった。そして、そう思わせてくれたのは、ナナさんなんだ。なのに…… 」


 アキの瞳に、綺麗な水の膜が張り、今にも溢れ落ちそうだ。

 優しいアキを傷つけた。

 どうしたら、安心させられる?

 どうしたら、俺の想いを伝えられる?

 どうしたら、アキの心から不安を追い出せる?


「アキ。受け入れたいのは本当。もう何度もお互い準備して来たろ? そろそろ大丈夫かなって思ってたところだったんだ。なのに、ケチが付いちゃって、俺の方こそごめん」

「いや。 アイツが来て、ナナさんの事聞かれて…… 直感的に、樹さんだなって思った。調べたなんて思わなかったから、ナナさん、連絡取ってたんだ…… って思ってスゴく苦しかった。しかも、、、あの存在感。負けるかもって……勝ち負けじゃないのにね」

「あの人、俺様だから」

「そだね…… !! ねえ、ナナさん、仕切り直そう! 後で振り返った時、今日を良い日だったって思いたい。 冷蔵庫にプロシュートとチーズ

 有るんだ。 ナナさんが美味しかったって言った赤ワインも入ってる」

「あの、数字のボトルの?」

「そう!! コレッツィオーネ チンクアンタ!シャワー浴びて、乾杯しよう! 多分また汚れるから、お風呂は後でゆっくり入ろう。ね?」


 イタズラに微笑むアキは、おそらく、俺を酔わせて食べる気だ。

 少しの不安と、それを上回る期待で胸が高鳴ったのは、アキには秘密だ。





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