第11話 2人のバスタイム ⁂

「ナナさんは、ネコっぽいかなぁ…… 」


 お互いに体を洗いあい、2人で湯船に浸かっている。

 アキの身体は、筋肉質で、腹筋ばかりか背筋も程よく割れていた。

 所謂、細マッチョというヤツだ。


 見惚れていると、「飲食業は、想像以上に重労働なんだよ」と笑っていた。

 それに比べて、俺の体のなんて貧弱な事か。

 少し恥ずかしい気もするが、素肌の触れ合いは、心地いい。

 アキは後ろから俺を抱き込み、耳朶を食みながらそんなことを言ってきた。


「ん? 俺、ネコも好きだけど、どちらかと言うと犬派!」

「はー。そうじゃなくて…… いや。まずはそこからか」

「???」

「あのね。ナナさん。男同士のセックスについて、どれくらい知ってる?」


 突然の濃い話に、あわあわと言葉に詰まる。

 正直なところ、殆ど知識がない。

「ごめん。後ろを使うことくらいしか知らない。具体的にどうやってそこまでたどり着くのか迄は、、、いきなり入る様にはならない?よな?」

「うんそう。色々準備が必要で、いきなりは出来ないんだ。でね、男役がタチ。女役がネコって言うの。因みに、僕はどっちも出来る」

「ん。それで?」

「ナナさんは、挿れたいかなー?それとも、挿れられたいかなー?って」

「…… 。体格差的に俺が女役かなぁとは何となく思ってたけど」

「そうとも限らないよ。お互いが良くなきゃだし。2人でゆっくりベストを見つけよ!」

「うん。…… あのさ。 さっきから気になってたんだけど…… アキの……当たってる」

「そりゃ! 大好きな人に思いが通じて、今は裸でこの距離! 反応するなって言う方がムリ!」

「ムリって…… 」

「ねぇ。少し触っても良い?」

「う…… ん…… ?」


 それから、アキの唇と大きな手は、俺の身体中を這い回った。

 チュッチュッと音を立てながら、首筋を攻めてくる。

 敏感になっている俺は、その度にビクビクと反応してしまう。

 大きな手は、胸の突起を弄び、優しく引っ掻かれると、背筋に快感が走った。

 顎が上がり、背後のアキにもたれるように頭を乗せる。


 アキの顔を右上に見上げると、唇も食べられてしまった。

 息が上がって、唇がひらく。

 その隙間から、優しく舌が侵入し、俺のそれを絡み取り、吸い上げる。

 俺もそれに応えようと必死になった。

 その間も、アキの手は胸や脇腹を撫でながら、少しずつ下へ降りて来た。


「待って。 アキ。 少しって言った」

「だって。 ナナさんが艶っぽいから。 それに、ナナさんも反応してる」

 下腹部の下生えを指で梳く様に弄び、肝心な中心には、触れてこない。

 それがどうにももどかしくて、とうとうアキにねだってしまった。


「アキ…… 焦らすなよ…… 」

「うん?どうして欲しい?ちゃんと言って?」

 イタズラな笑顔でそんな事を言う。

 腰を持ち上げられ、膝を跨ぐ様に座らされ、腰をギュと引き寄せられた。


 アキの優しい愛撫が、お湯を揺らす。

 恥ずかしい声を抑える為に、アキの肩を甘噛みして耐える。

「ナナさん。 ナナさん、 好き。 もう、 離さない。 綺麗だ。 愛してる」

 左手で背中に湯を掛けながら、優しく撫でられる。


 照れた顔で目を合わせると、ギュと抱きしめられた。

「僕、幸せ過ぎて死んじゃうかも」

 肩口に顔を寄せ、鼻先でスリスリしてくる。

「それは許さない。ずっと側に居てくれるんだろ?」

「そうだった!ナナさんが死ぬまで側にいる。ナナさんより3日は長生きする様に頑張るよ」

「ん?なんで3日?」

「ナナさんの葬儀が終わるまでは死ねない。

 それが終わったら、ナナさんの居ない世界に生きていてもしょうがないから、追いかける!」


 唖然とした。


 そんな風に考えてくれていたなんて。

 驚きすぎて、何も言えず、固まっていた。

「あれ? 重かった?」

「いや。驚いただけ。そんな風に思っててくれて嬉しいよ。ありがとう」

「そろそろ上がろうか。のぼせちゃうね」

「そうだな」


 立ち上がったアキの脇腹に傷跡を見つけた。

 ヘソの左斜め下。

 他より少し白く、少し凹んだ傷跡は、他が薄褐色の肌だけに、存在を強く主張していた。

 俺の視線に気付いたのか、アキは笑って聞いてきた。


「このキズ、気になる?」

「あ。ごめん」

「いや。いいよ。昔、刺された事が有って。その時のものなんだ」

「えっ?刺されたって?」

「うん。でも、その話はまた今度ね。それより、今夜は一緒に寝よう!僕のベットは大きいから。ナナさんを抱きしめて眠りたい」

「やだよ。ドキドキして眠れる気がしない。こっちも、その話はまた今度な」

「えー …… 」

 大きな体で、盛大にガッカリして見せるアキがなんだか、可愛い。


 お休みのキスをして、その日はそれぞれの部屋へ入っていった。




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