『三題話:雑巾マン(紅葉マーク)』 お題:雑巾、一週間、秋


 汚部屋であった。

 そこもかしもかに脱ぎ捨てられた衣服。

 そこもかしもに放り捨てられた廃棄物。

 適当に寄せ詰められた書物が、いくつかの点在している。

 この部屋の持ち主、太郎は両親が頭を抱えるほどのものぐさである。

 面倒事が大嫌いであり、唯一、祖母にいわれたときぐらいしか部屋の掃除をしない学生であった。

 故に、初めに抱いたのは怒りであった。

「たるんどる!!」

 それは雑巾(紅葉マーク入り)であった。

 雑巾は立ち上がると、部屋の持ち主である太郎君の傍へ歩み寄り、その頬を張り上げた。

「誰だ!?

「私の名前は雑巾マン、雑巾の付喪神だ!

貴様の部屋の汚さで目が覚めしものだ!」

「お前は、祖母がぬってくれた雑巾!?」

「そうだ、あまりに汚い部屋を見せられた怒りで、貴様の雑巾がたちあがったのだ!」

「まだ作成されて一週間もたってないのに、付喪神になるのはおかしくないかな……?」

「さぁ、大掃除だ!」

 それは苦難の物語であった。

「どうして貴様は、掃除の途中で本を読みだして止まるのだ!」

「わぁ、やめて! ピンチの所で取り上げられると続きが気になるんだ!」

「たるんどる!」

 この太郎、生来のものぐさである。

 正直、部屋を掃除したり、整理整頓したりする面倒さに比べるなら、部屋が汚いことなど物の数にも入れるつもりはなかった。

「さぁ、ゴミ袋を持って来たぞ」

「ありがとう、雑巾マン。さぁ、これで一気に綺麗に……痛っ!!」

「分別をしろ!」

 祖母が丁寧に縫ってくれたからだろうか。

 それでも雑巾マンに促されると、なぜか手を動かさないといけないような気がして、部屋を少しずつ整理していく。

「さぁ、大きなゴミは片付け終わったな。ならば、私の出番だ」

「師匠! しかし、師匠を使ってしまっては……っ」

「いいんだ。私は雑巾。掃除をするために生まれてきたものだ。ならば、ここで部屋を清潔にするために使われるなら本望だよ」

「師匠……!!」

 そうして、何時間過ぎただろうか。

 足の踏み場もない程に荷物やゴミに覆われていた部屋はいまはなく、そこには光沢を放つ木床をした清潔な部屋があった。

「やれば……できるじゃないか……」

「師匠のおかげですよ。いや、こんなに晴れやかな気持ちになれたなんて何年ぶりだろう……」

「ふふ、……しかし、最後の仕事がある」

「師匠……?」

「さぁ、私を廃棄するんだ。汚れてしまった雑巾はただのゴミ。捨てられなければならない」

「そんな、師匠のおかげでここまできれいになれたっていうのにっ」

「だからだよ。さぁ、君の手で完璧な仕事を見せてくれ。

 実はもうあんまり前が見えていないんだ。私はこの部屋の汚さに抱いた怒りで目覚めたものだからね」

「師匠……わかりました……」

 そっと雑巾マン(紅葉マーク)を太郎が手に取ると、ゴミ箱の上へと運び、

「そう、それでいい。それでいいんだ……」

「………っっ」

 そしてひらりと、雑巾マン(紅葉マーク)はゴミ箱へと落ちていった。

 最後の言葉は安らぎに満ちたものであった。

「師匠。あなたのおかげで綺麗になったこの部屋は忘れません。そして――」

 太郎は肩を震わせながら。

「明日の新学期に持っていく雑巾どうしよう……」

 新学期に持っていくことになっていた雑巾がなくなってしまい、どうしようかと頭を抱えた。

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