FileNo.7 コーダー - 03
「入れねえ」
「参ったな。『開いているのに入れない部屋』か。厄介なことを」
「引き
「解除してくれませんかね。あんたの仕業でしょう」
女性は何も返さない。
磐鷲はその光景をじっと見つめていた。白衣と金の髪をたなびかせてリビングルームへ跳ぶ彼女の体躯は、暖簾をくぐる辺りで完全に床から離れていた。言い換えると、彼女はその瞬間、間違いなく宙空に居た。
にもかかわらず。
次の瞬間、晶穂の体は百八十度反転していた。
着地したのは、元居た廊下。磐鷲のすぐ傍だ。彼女は暫く無言だった。無言のまま姿勢を正し、やがてまた、磐鷲の腹をポンと叩いた。
「何で俺の腹を叩く」
「日常を確かめるためさ」
無視しよう、と磐鷲は決意した。そのうち飽きるだろう。
「それはともかくとして、だ。ボス、これどう思う?」
「これ、とは?」
「分かり切ったこと聞き返すなや面倒くせえ。『他者を部屋に入れない』ってコレ、魔術なのか? 魔術にしちゃあ、やけにスケール小さえ気がするんだが」
「案件前の下準備は入念にしろ、といつも言ってる筈だが」
つまり、魔術ではない。確かに似てはいる。しかしその呼称は正確ではない。
「これは『陰陽術』だ」
「せいかーい」
気の抜けたような陰陽師の声が、リビングルームから響いた。
これが、昼下がりのマンションの一室で行われた、地味というより他にない、小さな戦いの幕開けだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます