FileNo.4 フラワー - 08
「――ぁぁぁああああっ!!!」
目の前が真っ赤に染まる。体の節々が溶けるような熱を放ち、燃え始める。私は大声を上げた。背を反って、空を見上げながら、目から、口から、体の奥から漏れ出す炎に全身を焼かれた。
その中で。
「――わたしに」
私は、空に一筋の亀裂が走るのを見た。
「燃やせないものは無し、よ!!」
空が、割れた。鏡のように、ガラスのように。空に走った亀裂からは炎が迸る。そして、その炎を逆光のように浴びながら。
彼女は、私の傍に着地した。
「なによ、あくうかんだか何だか知らないけど、やっぱり燃やせば良かっただけの話じゃない」
涼ちゃん、と、私は燃える舌で呟いた。そして、ああそうか、と納得した。
魔術装置を二度目に起動させたのは、雷瑚の用意したドローンではなく。
「お前……マジに無茶が過ぎるぞ。よりによって、あたしのドローンの代わりに魔術装置を動かすとか……」
「だって、もったいないじゃない! あんな高そうな機械、二台もオシャカにするなんて!」
焦げた匂いがした。鼻も口もドロドロに爛れていく中で、私は私が――いいえ。
私の『核』であった亜空間そのものが、グズグズに焼き砕かれたことを悟っていた。ああ、何てことだろう。こんなの、想定されていなかった。
自分から亜空間に入り込んで、内側から無理やり空間をこじ開けて戻ってくる人間がいるなんて!
「ま、でも、分かったでしょ? 結果で応えるのがプロのしごと! 中から全部燃やし尽くして灰にしてやったから、もう『花子さん装置』だって動かなくなったわ! まさに完焼! ……って、あれ?」
そこで初めて、涼ちゃんは私を見た。私も彼女の眼を見た。そして、その眼に微かな動揺が走ったところも。
だけど、それも一瞬。
「何だ……やっぱりあんたが、『花子さん』だったんだ」
ぼろぼろと、私の体が崩れていく。右ひじが崩れ、右足が崩れ、灰と化していく。声は……もう出せない。
『パイロキネシスは特段に攻撃的・破壊的な能力だと言っていい』
雷瑚の言葉は、真実そのものだった。想定外の出力だった。あまりにも圧倒的な――何も残らないほどの炎だった。
「おかしいとは思ってた。あんたってば、友達の名前、全然言ってくれないんだもん」
涼ちゃんはそう残念そうに言って――それから、ずんずんと私に近づいてきた。涼、と鋭い声で雷瑚が彼女を呼び止めようとするが、幼い霊能力者の歩みは止まらない。彼女は私の、燃え滓と化した首元を掴み、引き寄せて、強い光を宿した瞳で尋ねた。
「ねえ、教えて。わたしがあのトイレで初めて会った時、あんた、扉をノックしようとしてたわよね。それって、あのトイレに来た子供を罠にかけるため? 子供なんて、一人じゃ噂を試すなんて出来ないもの。他に仲間が――同じようなことを試そうとしてる子でも居ないと、ね。
それとも」
彼女はそこで、少し間を置いた。しかし、それも少しの――ほんの少しの間だけ。
「それとも、もしかして、自分で装置を動かすつもりだった? 色んな子を取り込んで、殺して――それが嫌になった、ってことは無い?
だって、魔術装置自身であるあんたがアレを動かせば、あの装置、エラーで壊れたんじゃ、って思うの。もし、あんたがそう考えて動かそうとしてたんだったら――」
言葉に被せるように、私は左手を持ち上げた。私はそれを彼女へ向けた。彼女へ――涼ちゃんの
どうせ壊れるなら――。
「――わたしたち、友達になれたかもしれないのにね、メアリー」
――ぼん、と、火薬が破裂するような音が響いた。激しい炎が、蛇のように、持ち上げた左手ごと、私の全身を締め付けていく。その中で。
私は、私をどこか寂しそうに見つめる、涼ちゃんの姿を見ていた。
「ばいばい」
――ばいばい、と応える前に、私の全身は灰と化した。
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