FileNo.3 ロスト - 13

「おっ」


 蔓延っていた冷気が、嘘のように消え失せていく。私ですら分かった。


 相手は退いたのだ。


「賢いな。強か、って言った方がいいか」


「あの……雷瑚さん」


「池尻」


 声を掛けた私の次を遮るように雷瑚氏は言って、またボリボリと頭を掻いた。それから、続ける。


「悪いんだけどさ。あたし、実は今、立ってるだけで精一杯なんだ。さっきの全力爆破で力使い過ぎた。あっ、いかん頭フラフラする倒れそうヤバい」


「ええっ!? ちょっ、大丈夫で――」


「ま、だから、何だ」


 彼女はそこで、こちらを振り向いた。そして、明朗快活な笑顔を向けつつ、こう告げた。


「後は任せるぞ。しっかり思い出せ。で」


 告げる最中。


 冷水を頭から被ったような酷い悪寒が、私の全身を刺し貫いた。


「ちゃんとよな」


 何を、と返す間も無かった。それ程に、それらは一瞬の出来事だったのだ。


 甲高い風の音に似た、腹の底を押し潰すような不快な金切り声が横断歩道に響き渡ったこと。雷瑚氏のすぐ前の空間が、弾けるような音を立てたこと。そして。


 雷瑚氏のすぐ背後に、真っ白な髪をふり乱し、深淵を具現化したかのような昏黒の瞳と口を開いた人影が現出したこと。


 全ては一瞬――刹那に始まり、終わった。


 この世の者では無いそれは、雷瑚氏に覆い被さるようにして、彼女を頭から

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