FileNo.3 ロスト - 13
「おっ」
蔓延っていた冷気が、嘘のように消え失せていく。私ですら分かった。
相手は退いたのだ。
「賢いな。強か、って言った方がいいか」
「あの……雷瑚さん」
「池尻」
声を掛けた私の次を遮るように雷瑚氏は言って、またボリボリと頭を掻いた。それから、続ける。
「悪いんだけどさ。あたし、実は今、立ってるだけで精一杯なんだ。さっきの全力爆破で力使い過ぎた。あっ、いかん頭フラフラする倒れそうヤバい」
「ええっ!? ちょっ、大丈夫で――」
「ま、だから、何だ」
彼女はそこで、こちらを振り向いた。そして、明朗快活な笑顔を向けつつ、こう告げた。
「後は任せるぞ。しっかり思い出せ。で」
告げる最中。
冷水を頭から被ったような酷い悪寒が、私の全身を刺し貫いた。
「ちゃんと伝えろよな」
何を、と返す間も無かった。それ程に、それらは一瞬の出来事だったのだ。
甲高い風の音に似た、腹の底を押し潰すような不快な金切り声が横断歩道に響き渡ったこと。雷瑚氏のすぐ前の空間が、弾けるような音を立てたこと。そして。
雷瑚氏のすぐ背後に、真っ白な髪をふり乱し、深淵を具現化したかのような昏黒の瞳と口を開いた人影が現出したこと。
全ては一瞬――刹那に始まり、終わった。
この世の者では無いそれは、雷瑚氏に覆い被さるようにして、彼女を頭から喰らった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます