FileNo.3 ロスト-14




「雷瑚さん!」


 悲鳴に似た叫び声が聞こえた。全身を揺さぶるかのような悪寒と虚脱感に、膝から崩れ落ちそうになる。が。


 その体を、駆けて来た誰かが、がっしりと掴んだ。


 夢と現の狭間を彷徨うような感触の中、倒れないようにあたしを掴んでくれたのであろう『誰か』に、眼を向ける。


「雷瑚さん! い、今、頭を食べられ……あれ? 首が付いてる? 血も出てない? 無事? 無事ですか!?」


「らいこ……」


「わ、私が分かりますか!? 池尻です!」


 ……池尻?


「なに言ってんの……?」


 自らを掴むその人物に向けて、恐らく、あたしは無意識に言い放っていた。同時に、脳内が、塗り潰すような怒りに満ちていく。あたしを心配そうに覗きこむ女の子。肩までの黒髪に、猫目っぽいちょっとキツメな眼差し。間違いない。


「返してよ……」


 目の前に居るのは。


「あたしの体、返しなさいよ!」


 紛れもなく、『あたし』自身だ。


「ねえ! 出て行って! 出てけっ!」


「わ、ちょっ、雷瑚さん!?」


「違いますぅ! あたしはらいこなんて変な名前じゃないですぅ! っていうかあんた誰なの!? 池尻って誰!? どこの――」


「へ、変な名前って……ん? もしかしてキミ、東さ――」


「あーっ!!」


 あたしは大声を上げた。もう全身を包む虚脱感などどうでも良かった。只々、不快感と嫌悪感と憤怒があたしを突き動かしていた。


「あんた、男でしょ! うわっもう最悪!! 何であたしの体の中にオッサンが入ってるワケ!?」


 あたしは『あたし』の体の首元を掴んだ。そして、強く握り、力いっぱい振り回す。


「で! て! いってよ! 早く!」


「そ、そう、言われましても! あと、何で、私がっ、男性だと?」


「分かるの、匂いで! 何となくだけど! オッサンの感じがする!」


「こ、心だけは若いつもりなんですが!」


「うまいこと言おうとしてんじゃないッ! どこの誰だか知らないけど、とにかく出てってってばぁ!!」


「はーい、そこまで」

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