FileNo.3 ロスト - 09
白衣の女性は、私の顔をじっと見つめた。その言葉に、驚きや戸惑いは無い。あたかも私の言葉を予想していたかのようだ。
そして、果たしてそれは事実だったらしい。
「推察其の二。お前はその体に入る前から、栄絵に何か伝えたいことがあった。だから度々コンタクトを図ろうとしたし、栄絵が事故に遭った日も、お前はその子の近くにいた。結果、事故で栄絵の精神が消えかけて、お前は代わりにその体に入り込んだ――ってことじゃねーかと、あたしは睨んでる。
逆に言うとだ、お前が伝えたかった何か――それを思い出して伝えねー限り、お前は成仏出来ねー可能性があるわけだ。それは宜しくない」
「宜しくない……ですか?」
「ああ。だって、心残りだろ?」
彼女は何でもないことのようにそう言うと、大きな欠伸をした。私はそんな彼女を、じっと見つめていた。
雷瑚……と名乗った彼女が何者なのか、私にはイマイチ測りかねていた。高校の教師とのことだが、普通の教師がペラペラと霊だの体に入り込むだの成仏だの言うだろうか? おまけに彼女は、失念していた私の名前までいい当てた。こういった異常な事態に慣れている――と考えるのが自然だろう。
ならば。
「私は、どうするべきでしょうか」
率直に尋ねる。今すぐこの体から出ていく術を探し出す。何を伝えたかったかを思い出す。いずれの解決策も漠然としていて、『ではどうするか』という点が鮮明ではない。
「立てるか?」
返答は、実に単純なものだった。私はゆっくりとベッドから降りてみて、足を上げてみたり、その場で軽く足踏みしてみたりする。……問題は無さそうだ。トラックに轢かれたにもかかわらず、思いのほか軽傷だった、と、この子の母親が安堵の表情で呟いていたのを思い出す。
「問題ないでしょう。……歩き出すと、すぐに疲れるかも知れませんが」
「なら、行くぞ」
「どこへです?」
「事故現場。名前を告げて自分を思い出したように、きっかけで記憶は復活するもんだ。だから、そのきっかけを探しに行く。……時間が経てば思い出すこともあるだろうが、栄絵の精神がどこに行ったかが気掛かりでな。状況的に、のんびり待ってる余裕は無さそうだ」
面倒なことになったぜ、と彼女は大きな欠伸をして言った。だが、その何でもないような所作が、私には実に頼もしく見えた。
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