FileNo.3 ロスト - 06
エンジン音が遠くなっていく中、商店街のアーケードの下を歩きながら、あたしはその時のことを思い出していた。確か……二週間前? それとも一か月前だったかな。
「紙袋を拾いました。横断歩道を渡ったくらいのところで」
話しながら思い出してみる。確かアレは夕方、塾に行こうとしていたくらいの時間帯だった筈。
「植え込みの端にこう……高さ三十センチくらいの、ちょっとがっしりした袋が置いてあって。ちょうど巡回中の警察の人が通りかかったので、『落し物です』って渡したんですけど」
「ほー……良いことしたなぁ。偉いぞ、栄絵」
雷瑚先生は笑い、あたしの肩をポンポンと叩いた。少し誇らしげな気分になる……いやそうじゃなくて。
「やっぱり、関係ないでしょうか」
「そいつを調べるのがあたしの仕事だ」
そう呟くように言う雷瑚先生の瞳は、美しい青色に輝いていた。あたしは今でも覚えている。その輝きに、理屈ではない力強さを感じたこと。そしてそれを、これまで目にしたどんな青よりも綺麗だと感じたこと。
あたしを家に送った後、雷瑚先生はわざわざ自分であたしの鞄を取りに学校に戻り、また引き返してきて、鞄と共に一つのお守りを渡してくれた。何でも、かなり御利益のあるものらしく、ひとまず変な現象はこれで起きないだろうと言った。その言葉は真実だったようで、その晩、あたしは枕元に何者かの気配を感じることもなく、ぐっすりと眠った。翌朝、久しぶりの快眠と、突き抜けるような晴天で、何となく『今日は良いことがありそう』なんて考えてすらいた。だから、思ってもみなかったのだ。
その朝の登校時、あの横断歩道で、暴走したトラックがあたしに突っ込んでくるなんて。
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